21 July 2016 単純性のなかにある、秩序や豊かさを発見すること工学院大学建築学部開設5周年記念イベント〈KU-SITE 完成披露記念対談〉レポート <工学院大学 新宿キャンパス3F アーバンテックホール>

スペシャル対談 アーティスト 野老 朝雄氏 x 建築家 千葉 学氏

2016年7月21日に開催された『工学院大学建築学部開設5周年記念イベント〈KU-SITE完成披露記念対談〉』。
アーティストの野老朝雄さんと建築家の千葉学さんの対談を中心に展開されたイベントでは、
両氏がともに手がけた「工学院大学125周年記念総合教育棟」の話を軸に、
一見、単純にも見えるモノゴトに潜む“秩序”や“豊かさ”を発見する歓びについての言葉が飛び交いました。
イベント当日の模様をレポートします。

挨拶とKU-SITEの紹介

2016年7月21日に工学院大学新宿キャンパス3階のアーバンテックホールにて開催された『工学院大学建築学部開設5周年記念イベント〈KU-SITE完成披露記念対談〉』。学生や卒業生、マスコミ関係者など200名を超える聴衆が集まったイベントは、工学院大学学長・佐藤光史の挨拶でスタートしました。

工学院大学学長 佐藤 光史工学院大学学長 佐藤 光史

新宿キャンパスの地下に設置された『KU-SITE』は、55インチモニタ3台を使用したデジタルサイネージエリアや展示エリアを備える、全長約11mの情報発信スペース。冒頭で学長は「新宿キャンパスの地下部分は、多くの人の目に触れる部分で、ここで大学のアピールや情報発信を行うのは平成元年の校舎竣工以来の悲願でした。日本国内では初の建築学部を開設して5周年となるこのタイミングでようやく実現できました」と工学院大学のビジョンについて想いを語りました。続いて、『KU-SITE』の設備概要や開設への想いについて触れ、「現在の展示エリアには『工学院大学125周年記念総合教育棟』のファサードに使用されている有孔折板が展示されています。本日のイベントには、この有孔折板のデザインを手がけたアーティストの野老朝雄さんと、教育棟を設計した建築家の千葉学さんが参加してくださっています」と挨拶を締めくくります。

今回お披露目されたKU-SITE

野老氏と千葉氏によるスペシャル対談

続いて登壇したのが、東京五輪・パラリンピック両大会のエンブレムデザインを手がけたことでも知られるアーティストの野老朝雄さんと建築家の千葉学さん。ナビゲーターを務める木下庸子教授も交えたスペシャル対談では、20年来の知己という野老さんと千葉さんの昔懐かしいエピソードなどに話が弾みます。「作品ができるたび、千葉さんのところに押しかけて報告する。そんな関係性でした」と野老さんは笑います。

さらに、千葉さんによるプレゼンテーションでは、建築写真やイメージ資料とともに、「工学院大学125周年記念総合教育棟」に込められた設計思想やアイデアについての具体的な話が展開されました。「僕は人の集まり方や、そこで築かれるコミュニティに興味があります。大学で起きている様々な関係性や行為を問い直すなかで生まれたのが、L字に折れた片廊下型の建物4つが背中合わせに並ぶプランでした。ガラス越しに教室同士が向き合うことでお互いの気配や息づかいを感じられる空間にしたかったのです」と千葉さん。さらに役割や公共性、ファサードデザインへと話題は展開。千葉さんが、旧知の間柄であった野老さんをプロジェクトに誘ったエピソードとともに、野老さんがスピーカーとして壇上に立ちます。

千葉 学さん千葉 学さん

大きさの異なるいくつもの水玉が、緻密なパターンを描き出す総合教育棟のファサードデザイン。『KU-SITE』にも展示される有孔折板には、シンプルな図形を使った紋様の制作を手がけてきた野老さんならではの方法論が落とし込まれていました。「僕は数学が全くできませんが、算数レベルの美しさにとても興味がある。数々の紋様を手がけながら、摂理やそれに近いものを研究し続けている感覚です。今回のファサードデザインでも、黄金比をもとに円の大きさや配置を決定。一見、不規則に見えるパターンのなかに、ある種の均衡や調和を持たせています」と野老さん。さらに、五輪・パラリンピック両大会のエンブレムなどの例を挙げながら、黄金比を意識した数々の作品について解説。計算され尽くした幾何学模様が描き出すバリエーションの豊かさ、秩序の美しさ、そしてコンセプトの見事さ。会場のあちこちから、感嘆の声が聞こえてきます。「たとえばピタゴラスの定理を知った途端、世の中にある直角三角形に秩序が宿っていることを知る。野老さんの作品には、そういう感覚に近い発見の歓びがある」と千葉さんも言葉を添えます。

野老 朝雄さん野老 朝雄さん

最後は参加者による質疑応答の時間。会場の学生から寄せられた「デザインをする時に、何を考えてスタートするのか」という質問に対して野老さんは「『絵を描くのを止めなさい』と言われても、ノートにちょこちょこ描いている子どもっていますよね。僕もそれに近いと思うんです。『走るのを止めなさい』と言われても走り続けた子がアスリートになり、『歌うことを止めなさい』と言われても歌った子がミュージシャンになるように、僕は描くことを止められなかった。だからあまり『どうデザインするのか』ということは意識しない。まずは手を動かして、そこから発想が脱線していくことが多いと思います」と答えます。また、千葉さんは「野老さんの作品の原点には、日常や自然界に潜む秩序や摂理に気付くような幸福があると思う。僕もそれに近い感覚で設計に関わっています。『何かを表現したい』というよりも、その空間で何が行われているのかを発見するという感覚が根底にありますね」と話します。ナビゲーターを担当した木下庸子教授は、「ふたりの関係性には、発見と歓びの相乗効果がある。だからこそ、ふたりが手がけた作品に心惹かれるのだと思います」と述べました。

KU-SITE展示されている有孔折板

『工学院大学建築学部開設5周年記念イベント〈KU-SITE完成披露記念対談〉』は、スタートからおよそ1時間で幕を閉じました。総合教育棟のファサードデザインを軸にデザインをめぐるいくつもの言には、静かな知的興奮が満ちているかのようでした。

野老 朝雄さん野老 朝雄さん

野老 朝雄 さん

アーティスト/
TOCOLO.com 主宰

1969年東京都生まれ。東京造形大学で建築を専攻後、ロンドンのAAスクールに留学し江頭慎に師事。9.11以降「繋げる」をテーマに、単純な原理に基づき定規やコンパスで再現可能な紋と紋様の制作。数多くのプロジェクトに参加する。2012年には、「工学院大学125周年記念総合教育棟」ファサードデザインを担当。2020年東京五輪・パラリンピック両大会の公式エンブレムを手がけたことでも知られる。

千葉 学さん千葉 学さん

千葉 学 さん

建築家/
東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻教授/
千葉学建築計画事務所

1960年東京都生まれ。東京大学建築学科卒業、同大学院修士課程修了。日本設計、ファクターエヌアソシエイツを経て2001年千葉学建築計画事務所設立。主な作品に「日本盲導犬総合センター」(日本建築学会賞)、「大多喜町役場」(ユネスコ文化遺産保全のためのアジア太平洋遺産賞功績賞)、「工学院大学125周年記念総合教育棟」(村野藤吾賞)がある。

木下 庸子(ナビゲーター)木下 庸子(ナビゲーター)

木下 庸子 (ナビゲーター)

工学院大学建築学部建築デザイン
学科教授/
設計組織ADH代表

1956年東京都生まれ。スタンフォード大学卒業、ハーバード大学デザイン学部大学院専門課程修了。米国で設計を学んだ後、1987年に設計事務所「ADH」を設立し、様々な作品を発表。JIA日本建築家協会新人賞(2000年)、日本建築学会賞(2012年)、日本建築学会著作賞(2015年)など多数の受賞歴を持つ。UR都市機構・都市デザインチームのチームリーダーを経て、2007年より現職。

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