掲載日:2012/02/14
総合教育棟の構造設計を担当した金箱温春(かねばこよしはる)です。金箱構造設計事務所を主宰し、さまざまな建築の構造設計を行ってきています。本年4月より建築学部の教授として着任することになりました。構造設計の役割・魅力・考え方を、構造専攻の学生だけではなく、建築を目指す多くの学生の皆さんに伝えたいと思います。
総合教育棟の構造計画の特徴を説明します。免震構造については既に山下先生の説明がありますので、上部構造の特徴を紹介します。
建物は地下1階では一体の構造ですが、1階から4階では4つのL型の平面に分かれた建物になっています。4つの建物は右上から時計回りにA棟、B棟、C棟、D棟と呼んでいます。図1は2階床の構造図を示したものですが、通常の建物とはかなり異なった構造形式となっています。屋根や床を支えているのは鉄筋コンクリート造の壁(厚さ30cm〜40cm)と鉄骨造の柱(1辺15〜20cmの正方形断面)で、通常の建物にあるような太い柱はありません。図中の赤い太線が鉄筋コンクリート造の壁、小さな□印が鉄骨柱です。A棟、B棟では研究室の隔壁が鉄筋コンクリートの壁となっており、また、C棟、D棟では講義室の周りを鉄筋コンクリート造の壁と鉄骨柱が取り囲んでいることが分かります。この特殊な構造は、免震構造を採用したことにより可能となったものです。
床や屋根の構造にも特徴があります。A棟、B棟は現場で型枠を組み配筋をして鉄筋コンクリートスラブを作るという一般的な方法です。C棟、D棟は特殊な工法で、図1の青に塗られた部分をプレキャストコンクリート構造としています。外周部にプレキャストの梁を配し、内部は幅1.5mのリブ付きプレキャスト版を並べ、その上に10cmの厚みのコンクリートを打設して一体化します。プレキャストの梁、床版は工場で製作し、現場に運搬して組み立てます。写真1は工場で製作した梁の状況、写真2は現場で組み立てられた床版の状況です。この方法によれば、スパンの長い梁や床を高強度のコンクリートとプレストレスの効果により小さな断面で作ることができ、現場での型枠作業を省くことにより工期短縮も可能となります。リブ付きのプレキャスト床版は、建物が完成するとそのまま天井面の仕上げとなるもので、リブの形状は意匠的な面も考慮して決定しました。D棟の最上階は最も大きな講義室とでスパンが18.2mあり、この部分の屋根のプレキャスト版はリブの高さが80cmと最も大きくなっています。
図1 2階伏図
写真1 プレキャスト梁
写真2 現場で組み立てられたプレキャスト床版