工学院大学とは工手からグローバルエンジニアへ(工学院大学の教育)

グローバルエンジニア育成における英語教育

平成16年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」

テーマ名 仕事で英語が使える日本人の育成
取扱名称 「グローバルエンジニア育成における英語教育」

1.取組について

(1) 取組の概要

現代社会の急速なグローバル化により、大学教育に対しても「国際性豊かな新しいタイプの技術者」養成を求める声が高まっている。本学は国際性豊かな『グローバルエンジニア』の育成を教育目標のひとつに位置づけ、技術者に必要なコミュニケーション力の向上を目指した実践的英語教育を行っている。本プログラムは、過去8年間で着実に成果を上げてきたCommunication Skill for Global Engineers(CSGE)を核としてより体系的に発展させるものである。ここでは1)CSGEとその基礎となる従来の英語科目との相関化、2)CSGE教育の質の向上(教員の質の向上、改善を含む)、3)CSGEを強化するための海外研修の実施規模拡大、4)実践的英語教育科目CSGEの実施拡大などを主な取組内容とする。現在実践中のCSGEに以上のような改善を行ない、日本では極めてユニークな工学系学生のための英語教育プログラムを完成させる。

(2) プログラムとの適合性

取組実施に至った動機・背景
交通機関、経済機構、インターネットの急速な発展が社会のグローバリゼーションを益々加速させている現代、日本の工業製品の世界市場への展開は、今なお英語が堪能な営業職の人々が中心的な役割を担っている。ところがスペックなど細部の検討段階に入ると営業職だけの対応では不十分であることから、英語が不得手なエンジニアを交えて交渉を進めるケースが多く見られる。その結果、技術的には優れているにもかかわらず、十分なアピールができないことから相手方への理解が得られないという不都合な局面が数多く生ずる。また、この非効率的なプロセスにより日本企業はスピード並びにコスト面で欧米企業に比べ、著しく不利であることは明らかである。

一方、技術面すなわち研究・開発、設計・製造の分野について目を向けた場合でも、海外企業との統合・合併、資本参加、技術提携あるいは世界各国からの部品調達などは珍しくなくなり、日本企業が単独で技術開発できる時代は既に終わりを迎えている。海外の生産現場は言うまでもなく国内での技術開発の場面においても、日本人技術者と外国人技術者との連携が高度な技術開発・維持と密接に関わってきた今日、母語が異なる技術者同士の直接的な意思の疎通が以前にも増して重要になってきている。さらに昨今、海外企業と日本企業との間で軋轢が生じ、深刻な問題のひとつとなりつつある知的財産に関しても、世界の先端技術を解すると同時に自国技術の独自性・優位性についても深い洞察を有する技術者が大きな役割を担う時代となった。

以上の現状を考えると、大学教育においても我が国の将来の一端を担う『グローバルエンジニアの育成』が急務である。本プログラムは『グローバルエンジニア』に必要なコミュニケーション能力開発を目的としており、その中核となる科目が、本学で既に8年間の実績をもつ、英語を母語とする講師が担当する実践型英語科目Communication Skill for Global Engineers(CSGE)である。このCSGEをより体系的に発展させ、改善していこうとするのが本申請の主旨である。具体的には1)CSGEの基軸となる従来からの基礎英語科目(本学の科目名称:「総合英語I、II、III」)などとの相関化を図り、学生への理解を促す。2)CSGE教育の質の向上(カリキュラムの改良、教員の質の向上・改善を含む)を図る。3)CSGEを強化し、学生の学習意欲向上のための海外研修の規模を拡大する。4)実践的な英語教育科目CSGEを全学の学生に提供する仕組みを構築する。5)授業での英語活用や異文化理解のための理数系科目担当教員(英語教育プログラム構築にも参加)の海外研修を支援する。

これらの取組により日本では極めてユニークなプログラムを完成し、これを習得した学生はまさに「仕事で英語が使える日本人(エンジニア)」となることが期待される。
大学の理念・目的との関連性
本学では大学教育機関として『国際性豊かな技術者』すなわち『グローバルエンジニア』の育成を教育目標のひとつとして位置づけており、本プログラム(グローバルエンジニア育成における英語教育)では、グローバルエンジニア育成を目的として、コミュニケーションツールである英語を技術の仕事に使うための総合的かつ実践的な英語教育を行う。
学生および教職員の評価
本プログラムの一部は既に1997年度からパイロットモデルとして国際基礎工学科で提供されている。大学に入学してから4年間通して取得できるCSGEは本プログラムの中核をなす。ここでの教育効果はTOEIC得点の向上(これまでの具体的成果については後述する)という形で現われている。このことは学生の就職活動でも有利に働き、学生から高い評価を得ている。また、英語に関する海外研修科目CSGE Abroad (Communication Skill for Global Engineers Abroad:協定大学Pitzer Collegeで実施)は単なる英語科目というだけでなく、異文化体験が学生の学習意欲向上に繋がるとして、教職員からは最も成功している科目のひとつとして認められ、実施規模の拡大が望まれている。
取組内容の独創性・新規性並びに既存の方法との比較

技術者として「仕事で英語」を使うためには、これまで多くの理工系大学でなされてきた、1・2年次で週1コマ程度の「読み書き中心」の英語授業だけでは不十分である。そこで本プログラムでは技術者という見地から以下3つの要素からなるコミュニケーション能力を培う多面的・総合的な英語教育を試みる。

[1] 確かな英語力
[2] 世界の習慣や文化に対する正しい認識と国際社会で通用するプレゼンテーション能力
[3] 技術者として有効なコミュニケーションツール
(英語の専門用語、数式、単位、設計図、プログラムなど)への理解

まず、[1]について「仕事で英語」を使うためにはまず英語力が必要である。この要素については、CSGEだけでなく大学教育に必要不可欠な英語科目、例えば本学では「総合英語?、?、?」に依るところが大きい。[2]については、逆に英語を母語とする技術者はすべて『グローバルエンジニア』と呼ばれる資格を有するかということを考えれば明白で、答えは「否」である。異文化に対する理解がなければ、会話はできても一緒に「仕事」をすることは難しい。本学では「国際企業論」、「国際関係と文化」などの国際系科目を提供するとともに、学生生活を通しても外国人教員や交換留学生と交流できる機会を与えている。特に国際基礎工学科では産学連携科目ECPの中で留学生とチームを組んで3ヶ月間活動を共にするケースもある。さらに海外研修科目CSGE Abroadにおいては、最終授業でプロジェクト研究に関するプレゼンテーションを英語で実施している。[3]は技術者特有の表現方法も国によって慣例が異なり、コミュニケーションツールとして使用する場合には注意が必要であるということである。例えば技術者にとって数式は共通語であるが、そこで使われる「単位」や「定義」はまちまちで長さの単位は[m]とは限らず[in]や[ft]など様々、また角度については日本のように慣例的に左回りをプラスにするとは限らない。この種の問題は座学でいくら単位換算を学んでも、体験的に修得するまでは、間違いに気付きにくい。『グローバルエンジニア』になるためには言葉の背後にあるコミュニケーションツールへの正しい理解が求められ、これらは英語教育の一環としての海外研修などを通じて体験的・実践的に修得することが望ましい。事実、CSGE Abroadと同時期に実施されるHarvey Mudd College での技術系科目ECP Abroadではアメリカの学生と共に実験に参加するものの、初めのうちはネジの規格にさえ、戸惑い悪戦苦闘する。そして、このような体験を身を持ってすることにより文化の違いに対する認識を身に付けていく。

一方、この[3]の要素については理工系教員もFE試験などを念頭に置き、授業中に英語のテキストや敢えて様々な単位を使用するなどの努力をしている。

この3つの要素からなる英語教育は文系学部などでは成し得ない新しい試みである。

また、プログラム構成メンバーに関しても基礎英語科目担当教員(教育要素[1][2]担当)、英語を母語とする実践型英語教員(教育要素[1][2]担当)、理工系科目担当教員(教育要素[2][3]担当)の三者連携による英語教育プログラム開発はユニークであり、他機関によるこのような例については知見していない。

(3) 実現可能性(具体的な実施能力)

技術者として英語を仕事に使うためには、前述の三要素に関する教育が必要である。特に第一番目の英話力と直接関わり、本プログラムにおいても中心的役割を果たしているCSGEは1997年度から他学科に先駆け国際基礎工学科で提供され、既に一定の成果が表れている。4年間履修するCSGEは90分授業週3コマ(4年次は週2コマ)を提供している。総単位数が22単位にものぼり、すべて英語を母語とする講師による他に類を見ない授業である。また、授業の一部については業務委託としてBerlitzから講師派遣を受け、各国で成果が実証されている英会話教育のノウハウをも取り入れている。CSGEでは英語を耳で聞き、自分の意志を英語で伝えることを徹底的に訓練される。また、ここでは段階的にプレゼンテーションやディベートの仕方についても学んでいく。また、3年次にはPitzer College/Harvey Mudd Collegeでの海外研修科目CSGE Abroad/ECP Abroadが履修可能である。一方、1、2年次には総合英語?、?、?のほか様々な英語科目が履修可能であり、工学部でありながら英語を学ぶ機会には非常に恵まれている。

ところが、これまで学生からはCSGEと他の英語科目との関連性についてはほとんど意識されることはなかった。

本プログラムではこれまで別々に実施していたCSGEと他の英語関連科目とを有機的に結び付けるため、CSGE講師と基礎英語担当教員との連携による体系的な英語教育を考えている。特に本学の英語科目担当教員の教育意識は高く、最近では英語に関する導入教育や習熟度別クラス分け、あるいはTOEICなど実践的なコミュニケーション力を意識した授業展開を他に先駆けて実施するなど、これまでの画一的だった我が国の英語教育の改革に積極的に取り組んでいる。連携後は定期的に話し合う機会を作り、シラバス作成に関連する役割分担、相互補間についても議論する。また相互の授業観察なども段階的に実施し、CSGEと他の英語関連科目との相関について学生からも理解されるよう工夫を重ねる。

将来的には、英語教員による協定大学(Pitzer College並びにHarvey Mudd College)との交流を図りながら、英語関連科目(含CSGE)担当教員が常勤・非常勤を問わず、協定大学で実施されている外国人対象の英語教育などに参加・研修できる仕組を作り上げる。さらに理数系科目担当者も協定大学などで一定期間海外研修を行ない、そこでの体験を帰国後の授業に活かせる仕組を築いていく。本プログラムではBerlitz や協定大学での教育ノウハウを参考にした上で、CSGE講師、基礎英語担当教員がそれぞれ独自に培ってきた教育方法に理工系教員の視点を加えることにより工学院大学独自のエンジニアのための英語教育方法の確立を考えている。

また、国際的に活躍したいと希望する本学の学生全員がCSGEを履修できるようカリキュラムを改革すると同時に、CSGE履修者全員にCSGE Abroadの門戸を広げるなど海外研修科目の拡充も計っていく。海外研修科目拡充には本学と教育理念が合致する欧米大学と新たに協定を締結していく必要があり、更なる交際交流が求められる。なお本学ではPitzer College、Harvey Mudd College以外にもNew York UniversityやLimerick Universityにおいても語学研修を実施しており、今後はそれらについても技術者育成という視点を付加していくことを検討する。

ところで本学では現在までに6年間継続して海外協定大学からの交換留学生を受入れており、日本人学生との交流は英語教育の一端を担っている。しかし、留学生受入れ体制については不備な面も見られることから、ハード・ソフトの両面から改善を試みる。手始めに本学学生の海外研修実施中に協定大学(例えばHarvey Mudd College)の理工系学生の中から本学(日本)での短期交換留学を希望する者を優先的にTAとして雇用する。本学学生に対する海外生活や言葉あるいは実験方法など様々なアドバイス・サポート業務に日当を支払い、経済的な留学生受入れ支援の一環とする。

以上の事柄は本プログラムをパイロットモデルとして実施している国際基礎工学科において図1の履修フローの形で実施されており、ここでの実績を考えれば十分、実現可能であると思われる。

(4) 教育の社会的効果等

これまでの我が国の高等教育は座学が中心であった。一方、社会ではすぐに実学が要求され、その不連続性に学生達は戸惑っている。本プログラムで実施する取組は座学と実学との橋渡しを大学教育で行うものであり、日本の高等教育に一石を投じるものと思われる。特にCSGE Abroadでは従来(日本同様)の教室内で行われる英語授業と海外でしか成し得ない体験型授業がうまく結びついて展開なされるなど、他大学への範となる点が多いと考えられる。

なお、パイロットモデルとして既にユニークな英語教育を実施している国際基礎工学科の学生の場合、身に付けた英語力は就職活動においても極めて有利に働いている。このことから企業においても英語ができる技術系人材をいかに求めているかがわかる。
 

(5) 評価体制等

本プログラムは学内的には自己評価委員会並びに教育委員会で評価され、問題点が明らかになった場合にはこれらの委員会で議論され、改善に向けた検討がなされる。一方、外部評価としては学外組織であるJABEE(日本技術者教育認定機構、H13年度に日本初の認定プログラムとなる)によっても定期的に審査され、教育効果並びにPDCAサイクルなどが問われることとなる。なお、本学では卒業生や企業へのアンケート調査を実施し、教育方法の妥当性について検証している。

一方、学生のコミュニケーション力に対する教育成果の評価方法として教育要素[1]については定量的な外部評価であるTOEIC試験を用いる。大学が「賛助会員」となり、一年中いつでも試験実施できるような体制を整えている。CSGEを履修の国際基礎工学科の学生は入学時、および各学年度末の計5回以上の受験機会を与えられている。これらTOEIC試験の結果は学生側の自己評価並びに動機付けにも役立っている。過去8年間のTOEIC試験実施は、本学の英語教育への取組姿勢を表している。図2から図4はTOEIC試験の平均得点である。図2、3、4にそれぞれ国際工学コース(国際基礎工学科の前身)の1998年度入学生、1999年度入学生、2000年度入学生(昨年度卒業)の結果を示す。ただし、現時点ではCSGEは必修科目ではないため同一クラスであっても学期により履修人数が異なっており平均値を算出する際の分母の数は一定ではない。いずれの場合も本学入学時点(1年次4月)で300点前後であった得点が、学習を積み重ねるにしたがって高くなっており、卒業間際には500点ないし600点程度にまで上がっている。すなわち本学の英語教育方法の妥当性はTOEIC試験という外部評価においても示されている。特に1998年度入学生と1999年度入学生の場合には3年次から4年次にかけて飛躍が見られ、このことは3年次終了時に実施される海外研修に起因するものと考えられる。

教育要素[2]に関する教育効果評価方法としてはCSGE Abroadで行われる英語でのプレゼンテーション並びに国際系科目の定期試験を用い、教育要素[3]については既に国際基礎工学科の多くの理数系科目において英語による定期試験を実施している。

2.取組の実施計画等について

「技術の仕事で英語が使える」ということは「単に英語が話せる」だけでは不十分である。本プログラムでは国際基礎工学科におけるこれまでの実績を踏まえ以下の取組を行う。

I.CSGEとその基礎となる従来の英語科目との相関化
II.CSGE教育の質の向上(カリキュラムの見直し、教員の質の向上、改善を含む)
III.CSGEを強化するための海外研修の実施規模拡大および交換留学生受入れ体制の充実
IV実践的英語教育科目CSGEの実施拡大(全学学生へ履修機会を提供)に関する仕組構築
V.授業での英語活用や異文化理解のための理数系科目担当教員海外研修

まず、I、IIについて、現在のCSGEによる英語教育効果はTOEICの得点向上結果からも明らかであるが、一方で企業が海外勤務の目安としているTOEIC得点である 730点には卒業時点においても届いていない。?、?ではTOEIC 730点少しでも近づくため、英語力の更なる向上を目的とした取組を実施する。そのためには一層質の高い教員の確保が重要課題となるが、これまでも教育経験豊富で高等教育機関にふさわしい英語を母語とする英語講師の人材確保は容易ではなかった。そのため授業の一部については業務委託として英会話教育で実績のあるBerlitzから講師派遣を受けている。このこと自体、大学としては先進的な試みであったが、今後は英語を母語としない人のための英語教育を専門とする質の高い講師の安定的確保が望ましい。本プログラムではアメリカの協定大学などの語学教員を常時招聘し、さらに本学の英語科目担当教員と連携して工学院大学独自の英語教育プログラムを構築する。そのためには本学の英語科目担当教員と協定大学との連携強化も重要となり、両者のCSGEへの理解を深める必要がある。また、CSGEと総合英語との関連についても学生から見えるよう工夫を施す。次に?では現行プログラムで既に大きな成果を上げているCSGE AbroadをCSGE単位取得者の全員参加に必修科目として実施拡大させるため、受入れ協定大学を開拓し、現地の非常勤語学教員を本学非常勤講師として雇用する。一方、協定理系大学の外国人学生にはディスカッション・リーダーになってもらい、海外研修中の本学学生との交流を深めてもらう。その後、ディスカッション・リーダーには交換留学生として本学で勉強する機会を与える。外国人留学生受入れ後は本学学生の英語力向上にも繋げるべくプロジェクトやサークルに参加してもらい、可能な限り交流の場を提供する。?ではCSGEを国際的に活躍したいと希望する学生全員に開放する仕組を作る予定である。?に関連し、国際基礎工学科では既に複数の理数系科目でテキスト、板書、宿題、試験などで英語が使用されているが、本プログラムではこのような取組の可能な限りの拡大を目指す。また、実際に欧米の大学での授業参加をし、そこで行われている様々な工夫を帰国後の授業に活かせる仕組を作り上げる。昨今では高等教育機関に所属する教員は海外経験がある方が望ましいと言われているが、現実には特に私学の現状を考えると、赴任後、まとまった時間を取ることは難しく、例えば海外でモノ作りをした経験のある教員は必ずしも多くはない。

本プログラムではまず海外研修の学生を引率するという形を取りながら教員にも研修の機会を与え、ここでの異文化体験を後の授業にも反映させる予定である。図5はプログラム実施例の模式図(概略)である。本学ではPitzer College並びにHarvey Mudd Collegeと協定締結しており、それぞれ語学研修(CSGE Abroad)と技術研修(ECP Abroad)を実施している。本プログラムでは国際基礎工学科での現行プログラムをさらに発展(太字部分)させており、英語教育の部分についてはこれを全学的に実施拡大する。また、他の欧米大学でもこのようなプログラムを実施できるよう協定締結を検討する。

写真

写真1 CSGE Abroad授業風景

写真2 プレゼンテーション

写真3 ディスカッション・リーダーと食事

写真4 ミーティングに参加

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