【開催レポート#4】建物を創る想いと『重箱ハウス』に詰められた夢

2020 / 12 / 11

第4回 道先案内人/
株式会社ルナ・デザイン・ラボ代表 髙橋寛さん
株式会社メグロ建築研究所代表 平井充さん
株式会社メグロ建築研究所代表 山口紗由さん

国内外で活躍する卒業生を道先案内人に迎えて行われるオンライン参加型セミナー『KUTE CheerUp Seminar 2020』。

本イベントでは『MY CheerUp(元気の源や座右の銘)』、『MY Story(成功体験+挫折経験)』、『MY KUTE(自分にとっての工学院)』という3つのテーマを軸に、さまざまな分野で活躍する卒業生の講演や対談を配信しています。

2020年11月22日に行われた第4回セミナーで道先案内人を務めたのは、2019年にグッドデザイン賞を受賞した住宅建築『重箱ハウス』を設計した建築家の平井充さんと山口紗由さん、そして同住宅の施主であり電気設備設計を手がけた髙橋寛さんです。
工学院大学の卒業生である平井さんと髙橋さんは在学中から親交があり、『重箱ハウス』はその信頼関係を出発点に生み出された建築だといいます。
写真撮影:畑拓
今回のセミナーでは、『重箱ハウス』をめぐるエピソードを中心に、建築業界の最前線で活躍する3人がいかに学生時代を過ごし、建築という仕事とどのように向き合ってきたのかをお話しいただきました。

学生時代に得たものや、仕事との向き合い方、学び続けることの大切さ…。さまざまな話題が飛び交った『第4回 KUTE CheerUP Seminar 2020 』の模様をレポートします。

髙橋 寛さん

東京都生まれ。2006年、工学院大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。在学中、藤木研究室にて建築意匠を専攻するうち、照明デザインに興味を持つ。修了後は、建築設備設計事務所に入所。2017年、株式会社ルナ・デザイン・ラボを設立し、代表取締役に就任。アトリエ系意匠事務所や大手設計事務所などの協力事務所として、建築電気設備の計画・設計全般を行う。住宅、保育園、病院、工場、庁舎、大規模オフィスビルのほか、城などの文化財、神社仏閣、公園、橋梁等、幅広い建築物を対象とする。

平井 充さん

北海道生まれ。2009年工学院大学大学院博士課程満期退学。初田(亨)研究室で東京の都市史を学ぶ。吉原設計事務所(旧天野吉原設計事務所)を経て、2009年に一級建築士事務所Drawing notes設立。2014年に株式会社メグロ建築研究所に改組し代表取締役。現在、実践女子大学非常勤講師、京都工芸繊維大学ヘリテージアーキテクト養成講座講師、NHK文化センター青山教室講師、(一社)Docomomo Japan理事・技術委員、(公社)JIA登録建築家、東京ヘリテージマネージャー。東京だけでなく中国重慶市にも拠点を置いて、都市と建築の接点に着目した設計活動を行う。また、近代建築の保存改修プロジェクトのほか、保存記録活動や価値の普及するための活動なども行っている。

山口 紗由さん

東京都生まれ。2008年日本女子大学家政学部住居学科卒業、2010年同大学院修士課程修了(建築計画)。日本女子大学大学院修士課程在学中に一級建築士事務所Drawing notes共同主宰。2014年に株式会社メグロ建築研究所に改組し代表取締役。現在、東海大学非常勤講師、日本女子大学大学院博士課程後期在学。新築プロジェクトや近代建築の保存改修プロジェクトのほか、「集まって住む」ことをテーマに国内外の住まいや、福島県の震災後の住まいとコミュニティのあり方についての調査研究も行っている。

『重箱ハウス』に込めた思い

「建物を創る想いと『重箱ハウス』に詰められた夢」をテーマに展開された本セミナーには、工学院大学の卒業生である髙橋寛さんと平井充さん、そして平井さんとともにメグロ建築研究所の代表を務める山口紗由さんが登壇しました。
左から 髙橋 寛さん、山口 紗由さん、平井 充さん
2019年にグッドデザイン賞を受賞した『重箱ハウス』からライブ配信を行う3人は、セミナーの冒頭で映像とともに『重箱ハウス』を紹介しました。

積み木を重ねたような印象的なデザイン、1階がRC造で2階・3階を木造にして各層をセットバックすることで空間に余白を生み出していること、可能な限り電気を使わずに快適な居住空間を実現していること…。3人は、さまざまな視点から『重箱ハウス』の概要や特長について教えてくれました。

それぞれのキャリアストーリー/
ルナ・デザイン・ラボ代表 髙橋寛さん

『重箱ハウス』の説明に続いて、建築業界の最前線で活躍する3人がそれぞれの学生時代の過ごし方や仕事との向き合い方について話していきました。

最初に登壇したのは、さまざまな建築物の電気設備設計を手掛けるルナ・デザイン・ラボ代表の髙橋寛さん。工学院大学の卒業生である髙橋さんは、建築学科に進んだ理由や、学生時代の挫折が成長につながっていること、在学中から多くのデザインコンペに応募したことなどを話していきます。

なかでも印象的だったのが「さまざまな視点から建築を見ることの大切さ」についてのお話でした。

「学生時代には平井くんや仲間たちと、とにかくいろんな建築物を見に行きました。また、ニューヨーク大学でのサマーセッションやさまざまな大学の学生が集まり建築を生かしたアート展示を行う『FUJISAWA Artwork』に参加し多彩な人々と交流することで、より広い視点で建築を見られるようになりました」と髙橋さんは話します。
さらに話題は、髙橋さんが手掛ける建築電気設備設計という仕事についても及びます。

「ひと言で建築設計といっても、意匠設計や構造設計、機械設備設計、電気設備設計に大別することができます。人間で喩えるなら、意匠設計は外側、構造設計は骨格、機械設計は内蔵、電気設計は神経に近いと思います」
自身の専門性をより特化させるために電気設計の道を志したという髙橋さんは、これまでに関わったプロジェクトを例に取りながら、電気設計の仕事について細やかに教えてくれます。そして締めくくりに紹介されたのが、高村光太郎の『道程』からの一節でした。

「僕の座右の銘は『僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる』。この言葉は、誰もが進まない道なき道を進んでゆく決意を表現したもの。僕もこの言葉を胸に仕事をしたいと思っています。うちの会社の名前は、ルナ・デザイン・ラボと言いますが、ルナとは月の意味。意匠設計が太陽であるなら、電気設計は月。お互いに支え合って良い建築ができればいいな、と考えています」

それぞれのキャリアストーリー/
メグロ建築研究所代表 平井充さん

続いて登壇したのは、メグロ建築研究所の平井充さん。髙橋さんの工学院大学時代の同級生であり、『重箱ハウス』の設計を手掛けた平井さんは「好きになれるものを探し続ける」ことが、建築家としての現在につながっていると話します。

「好きなことに取り組んでいると、人は集中力を持続できる。そういう対象を見つけたいと思っていたときに出会ったのが、フランク・ロイド・ライトの『自由学園明日館』でした。この建築を見たときに感じたのが、建築は単に建物ではなく環境を作るということ。僕自身が数学や物理のほかに美術が得意ということもあって、芸術に近い要素を持つ建築ならば、興味を持ち続けられると思ったんです」
こうして建築学科に進むことを決めた平井さんは、在学中から授業やゼミの活動だけではなく、仲間を巻き込んで名建築の見学なども積極的に行ってきたといいます。
「外の世界に好奇心を持ち続けることは、自分にとっての刺激になるし、新しい好奇心の扉を開けてゆくためにも大事なことだと思います」

こうした平井さんのスタンスは、在学中だけでなく建築家として活動するようになった現在も変わらないそう。これまで手掛けてきた数々の建築作品を紹介する平井さんは「学生時代の経験が、現在につながっている」と続けます。

「実は最近竣工した一軒の住宅が、学生時代にコンペのために作ったプランと、空間構成がほとんど同じで驚いたことがありました。アイデアの種のようなものは、もしかしたら学生時代の自分の中にあるのかもしれない。それをどこまで発展させられるかが大事だと思います」

最後に平井さんは「自分で決めた目標を10年やり続けること」と「得意な部分だけ伸ばすこと」の大切さについて伝えます。

「学生時代の恩師にもらった『自分で決めた目標を10年やり続けろ。10年続ければ一流の末席に手が掛かる』という言葉を信じて、『建築のことだけを考えられる環境に身を置く』こと意識して続けてきました。また、不得意な部分を頑張って人並みにするのではなく、得意なものだけを伸ばして集中力を持続することも心掛けてきました。それが、今の私の軸になっていると思います」

それぞれのキャリアストーリー/
メグロ建築研究所代表 山口紗由さん

続いてのキャリアストーリーは、平井さんとともにメグロ建築研究所の代表を務める山口紗由さん。「建築家は建物を作るだけでなく、生活やその空間で過ごす時間をデザインする人」と定義づける山口さんは、自身が大切にしている4つの活動について話します。

「『創る』『知る』『伝える』『議論する』。これら4つの活動が建築家として仕事をしていくなかで私が大切にしていることです。『創る』は文字通り建物の設計をすること。住宅だけじゃなくお寺やゴルフのクラブハウスなど、さまざまな設計をしています。次に『知る』。これは国内外の建物を見て回ることです。こうして得た知識を多くの人に『伝える』ことも大切。建築家は施工する人をはじめ多くの人と協働する仕事なので、お互いに意見交換しながら『議論』することもとても大事です」
建築家という仕事をわかりやすく紹介する山口さんは、続いて学生時代に本格的に建築家を志すようになったきっかけについて話します。

「私が建築に興味を持ち始めた第一歩は、髙橋さんと平井さんも参加していた学外活動の『FUJISAWA Artwork』でした。この活動では、いろんな大学から来ている建築系の学生が集まり『藤沢にある名建築を市民に知ってもらうため』の活動を考えるのですが、議論しながらプロジェクトを進めてゆくことがとても面白かったんです」

山口さんが建築に興味をもったもうひとつのきっかけが、両親の住む住宅のリノベーションを自ら手掛けたことだったといいます。

「大学1年生の時に両親が家のリノベーションを計画していたのですが、その際に『私だったらこういう住まいを提案する!』というプランを作って両親を説得しました。すると両親は喜んでくれて、実際にそのプランでリノベーションを進めることに。身近な人の生活が建築によって変わる経験ができたことは、私にとって大きな財産になりました」
こうして建築に没頭していく山口さんですが、建築家を志す道の半ばにはいくつもの挫折があったそう。そのひとつが、自身の建築プランを思うようにプレゼンテーションできないことでした。

「緊張して自分のプランをきちんと伝えられない。それが悔しくて、どうやって克服できるのかを考えました。もちろん練習すればある程度は上手になると思うのですが、根本的な苦手意識を解決するためには、自分に自信を持てるようになる必要があると考えました。では、そのためにどうすればよいのか。私は、『正しい知識を得る』『経験する』『自分で考える』という3つのポイントを常日頃から意識し、自分のプランを100%理解することで、自信を持って話すことができるようになりました」

『重箱ハウス』に込めた3人の思い

セミナーの終盤で行われたのは、グッドデザイン賞を受賞した『重箱ハウス』をテーマにした3人の鼎談でした。

3人が協働するようになったきっかけや『重箱ハウス』のユニークなコンセプトワークをはじめ、グッドデザイン賞受賞をはじめとする数々の反響のことなど、『重箱ハウス』をめぐる話題は縦横無尽に展開していきます。
電気設備設計を手掛けた髙橋さんの目から見た照明計画の独自性や、意匠設計を担当した平井さんと山口さんがこだわった住居と周辺環境の関係性など、最前線で活躍する3人の意見には、さまざまな発見や新たな気付きがあり、思わず話に引き込まれてしまうほど。建築を志した理由や歩んできた道のりは三者三様ながら、それぞれが建築という仕事と真正面から向き合っていることが伝わってきます。

『重箱ハウス』をめぐるさまざまな話題のなかで、特に印象的だったのがこのプロジェクトの原点が学生時代にあったこと。「実は10年ぐらい前から家の建て替えの話があって、その時から平井くんや平井くんがその後に勤めた建築事務所の先生に話を聞いていたんです」と髙橋さんは話します。

「学生時代から話があって、ああでもないこうでもないと考えてきたものが『重箱ハウス』として実現し、社会的にも評価された。それはとても嬉しいことでした。学生の間は、自分が考えていることは社会に出ないアイデアだと思ってしまいがち。でも、それを積み重ねることは結構大切だと思います」と平井さんは話します。
さらにオンラインセミナーの終盤には、平井さんから学生に向けたアドバイスも。

「今、学生の皆さんはコロナ禍でモヤモヤしていると思います。でも、そんな生活の中にも未来のチャンスを掴むきっかけはあると思う。今はなかなか外に出られない状況ですが、SNSやネットを通じて得られるネットワークにも、実は今の時代ならではの何かが潜んでいて、10年20年後に新しいカタチで実っていくかもしれません。だから、しつこく自分らしく動き続けてほしいですね」
こうして、1時間30分以上に及んだ『第4回 KUTE CheerUP Seminar 2020 』は終わりを迎えました。

本セミナーは『My Cheer Up(元気の源や座右の銘)』、『My Story(成功体験+挫折経験)』、『My KUTE(私にとっての工学院大学)』という3つのテーマを軸に企画されたものです。

最後に、今回のセミナーの3つの軸に対する3人の回答をご紹介し、レポートを締めくくりたいと思います。

My Cheer Up:元気の源や座右の銘

髙橋さん
· 僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る

平井さん
· 自分で決めた目標を10年やり続ける
· 得意な部分だけ伸ばす

山口さん
· 創る、知る、伝える、議論する
· 自分の欠点を克服する(正しい知識を得る、経験する、自分で考える)

My Story:成功体験+挫折経験

髙橋さん
挫折:優秀な大学同期との出会い
成功:コンペティション受賞、藤沢アートワーク

平井さん
挫折:中国のプロジェクトでスケールの巨大さに無力感
成功:コンペティション受賞、藤沢アートワーク

山口さん
挫折:苦手だったプレゼン
成功:両親の家のリノベーション、藤沢アートワーク

My KUTE:私にとっての工学院大学

髙橋さん
・様々な志を持った人との交流をもてた場所。アクセスが良いので他大の学生も集まりやすい環境でした。

平井さん
· 何をするのでも拠点になりうる新宿の都市型キャンパスは、刺激も多く建築を学ぶうえで素晴らしい環境。

山口さん
· それぞれ何かに突出している楽しい人たちが多い印象があります。

第5回セミナーは12月19日(土)開催!

第1〜3回KUTE CheerUP Seminarでお話いただいた豊田裕樹氏(英国国立コベントリー大学教員)と一緒に、本学学生3名が登壇して「先生と夢を語ろう」というテーマで対話形式でお届けします。
当日は、キャリア(就職活動、起業、進学)やポジティブマインド、研究・エンジニア等について、一緒に考えていきましょう!