第一章 黎明期

工手學校設立のための私立学校設立願

工手學校創立

文明開化が到来した明治時代の日本では「近代国家の発展には工業化が不可欠である」と考えられ、工業立国を推し進める優れた実践的技術者が求められていました。時代の要請に応じ、当時の帝国大学総長であった渡邉洪基は、工科大学教授の辰野金吾の賛同を得て、日本初の本格的私立工業学校の設立をめざしました。
明治20年10月31日、工手學校設立協議会が開催され、出席した帝国大学教員14名が発起人となり本学のルーツとなる「工手學校」の設立を決議。本学では、この日を創立記念日と定めています。

工手學校募集広告

明治21年、応募者800名のうち228名の入学合格者で授業を開始。特選管理長 渡邉洪基、初代校長 中村貞吉のもと、土木、機械、電工、造家(建築)、造船、採鉱、治金、製造舎密(化学) 8学科を設置。東京府京橋区築地に校舎がありました。

工手學校授業科目表

左/御下賜金の朝日新聞記事
右/出火のお詫びと授業の一時休止を告げる広告
(明治29年2月13日 東京朝日新聞)

築地校舎焼失 皇室から御下賜金

工手學校開校より6年での災難。卒業式が挙行された2月9日深夜、築地校舎から出火、校舎建物は焼失しました。再興の不安がささやかれる中、校舎再築義捐金募集趣意書を関係機関に伝えるなど素早い復興策が掲げられ、3月2日には芝にある寺院を仮校舎として授業を再開しました。

明治末年の機械製図室

この工手學校罹災の件は、天聴に達し(天皇陛下のお耳に達すること)、明治29年4月10日「今般 工手學校思召ヲ以テ金五百円下賜候事」の報が宮内庁より手渡されました。この御下賜金の恩恵と実業界、校友有志たちの寄付により新校舎が落成し、罹災前より学生数を増やすこととなりました。

大正時代の築地校舎

無機実験室(大正8年)

二十五年記念工手學校一覧


創立25周年記念式典挙行

工手學校は明治45年に創立25周年を迎え、同年の明治天皇崩御により喪に服したのち、翌大正2年11月に、延期していた記念式典を挙行しました。

この時来賓として壇上に上がった祝辞で渋沢栄一は、「国に頼らず、自分たちの手で民間の技術立国を推進しなければならない」と述べ、長時間正しい姿勢で、微動だにせず、その声々は会場の隅々まで届き、聴衆に感銘を与えたといいます。明治黎明期の工業教育を担う工手學校に賛同し、財政援助を惜しまなかったことは、渋沢が近代日本の技術立国を重要な課題であると考えていた事がうかがえます。

創立25周年記念式典で祝辞を述べる渋沢栄一

この初期四半世紀では、8000名の卒業者が巣立ち、日本工業を支える有力な担い手となりました。彼らの功績は国内外で高く評価されました。

関東大震災の惨状

関東大震災により焼失

9月1日に発生した関東大震災(マグニチュード7.9)は大地震による被害もさることながら、広範囲にわたる火災と延焼の被害が甚大でした。工手學校築地校舎も揺れによる被害は少なかったものの、築地本願寺などと共に延焼を免れませんでした。ある教員は「あたり一面が、ただあか黒い焼野原と化してしまった。学校の焼け跡にはただひとつ焼け残った金庫だけがぽつりと立っていた。」と述べています。

新宿付近の地図(昭和7年頃)

工手學校が仮校舎とした日本中学校

校舎全てを失った工手學校は、授業を再開する為に、仮校舎探しに奔走。当時の高松豊吉管理長と古市公威は、震災被害が少ない山の手・新宿に校舎のある日本中学(現 日本学園中学校・高等学校)の杉浦重剛校長へ教室借用を申し入れます。

杉浦氏は御学問所御用掛で天皇陛下へ御進講を務めた教育者で、古市の旧知の中でもあり、この申し出に快く応じました。こうして、大震災後の2か月後には新宿仮校舎(現 新宿キャンパス付近)で、授業を再開することができました。

淀橋校舎の建築始まる

淀橋校舎落成 工学校から工学院へ改称

関東大震災後、日本中学を借用して授業を再開した次の課題は、校舎再建でした。震災前より、築地校舎は既に狭隘であったことを指摘されており、将来にわたって有益な工学人材を輩出するためには、より広い敷地に校舎を建てる必要性がでてきました。

完成した淀橋校舎

工手學校復興建築落成記念絵はがき

30か所以上の候補地の中から、現在の新宿キャンパスが位置する、東京府豊多摩郡淀橋町が選ばれました。

当時の西新宿は淀橋浄水場のほかに、教育機関がいくつか立地し、交通機関の乗り入れも多いことから、その後の発展が望まれていました。卒業生や財界からの寄付に支えられ、昭和3年4月、震災の経験を活かした耐震、耐火に留意した鉄筋コンクリート3階建て643坪で、当時の学校建築としては大きなスケールの校舎が落成しました。そして同年6月には、工手學校より工学院へ校名が改称され、あらたな道に踏み出しました。