事業計画および平成28年度の進捗状況

平成28年度事業報告
各年度の事業報告

1.事業内容

本事業の目的は、これまで主に建築学分野で得られている新宿区等の地域の自治体・事業者・住民と連携した震災対策の成果をさらに発展させるため、平成28年に改組した本学・情報学部が保有する最先端のICT技術(AR/VR、モニタリング/画像処理、非常通信/高速情報処理など)との融合により、震災・水害等による都市型複合災害に強く、速やかな機能回復による「逃げる必要のない建築・まち」の実現を支援するエリア防災活動支援技術に関する研究開発事業と、その成果をもとにした地域連携による社会実装事業を行うことである。

具体的にまず研究開発事業において、マルチハザード認識・エリア防災計画策定・オールハザード対応訓練のツール群で構成する「①オールハザード対応キット」、都市型拠点建築を対象に機能継続・早期復旧を可能とする「②大地震対策建築モデル」、および、エリア拠点施設において災害対応支援を行う「③自立移動式ゼロエネルギーユニット」、による3つの研究テーマを互いに密接な連携のもとで実施する。一方、研究開発事業と並行して実施する社会実装事業では、地元の自治体(新宿区等)と住民・事業者との連携により、3つの開発技術を様々なイベント(講習会・防災訓練・防災ベントなど)で現場にて適用し、その有効性を検証したうえで、全ての成果を公開・広報するキャンペーン(チラシ・サイネージ・メディア広報など)等によるブランディング事業を実施する。

2.平成28年度の実施目標及び実施計画

平成28年度、エリア防災活動支援技術に関する3つのテーマの研究開発事業の開発目標および計画は、下記の通りである。

テーマ1

オールハザード対応キットの仕様決定とソフト開発の開始を目標とする。このために、オールハザード対応キットである、①マルチハザード認識ツール(AR体験型の都市型複合災害認識ツール)、②エリア防災計画策定ツール(事業者・市民および中心市街地・住宅地エリア向け)、及び、③オールハザード対応訓練ツール(VR体験型の都市型複合災害訓練ツール)、の仕様を決定し、基礎的な地図データの購入とソフト開発を開始する。並行して新宿駅周辺地域および周辺地を選定し、3次元空間の基礎情報を収集する。

テーマ2

地域拠点施設の選定と構造・非構造のモデル化、および、大加速度・大変位振動台の仕様決定を目標とする。このために、地域拠点施設として、新宿区等の協力により区内の超高層建築(S造)、市民体育館(S造+RC造)、学校体育館(S造)を抽出し、構造・非構造材(天井・内外装材・設備配管等)の耐震性能の調査を実施し、立体解析モデルを構築する。並行して大地震時の高層建築上層階や体育館天井部などの揺れを再現する大加速度・大変位振動台の仕様を決定する。さらに総合的な耐震性評価法(Resilience-Based Design)のため基礎調査を実施する。

テーマ3

D-ZEV(本体とD-ZEV mini)の仕様決定を目標とする。このために、非常通信、太陽光発電システムと集熱器・蓄電器の容量、車両の断熱レベルなどの仕様を明らかにし、エネルギー消費量をネットでゼロにするという観点からD-ZEV(Disaster-robust Zero Energy Vehicle)におけるD-ZEV本体とD-ZEV mini(移動式非常通信用の自動2輪車)の仕様を決定し、自動2輪車・通信機器など関連機器を導入し、D-ZEVの構築に着手する。
一方、社会実装事業の目標は、本事業のウェッブページの立ち上げ、関連する自治体・事業者等を対象に、震災に加えて水害を含む都市型複合災害に関する調査を実施する。このために、ウェッブページの立ち上げ、新宿区の行政・住民・事業者と連携し、セミナー・防災訓練を実施し、都市型複合災害への認識や自助・共助による現状の対策の実態、および、本事業の開発技術に関する基礎調査を実施する。

3.事業成果

平成28年度の成果としてホームページを開設し、研究成果報告書を公開すると同時に、2017年3月17日(金)に工学院大学新宿校舎3階アーバンテックにて成果報告会を開催した。概要は以下の通りである。

テーマ1の進捗報告

オールハザード対応キットの仕様決定とソフト開発を開始し、予備的実験を行った。具体的にはマルチハザード認識・オールハザード対応訓練ツールの開発に用いるVR・動画像解析・視線計測に関する実験・製作環境の導入、3Dモデル試作、動画像からの異常行動検出アルゴリズムの試作、および視線計測試験を行った。またエリア防災計画策定ツールに関しては、新宿駅周辺地域のエリア震災対応においてドローンの活用可能性を検証する実験を行った。
テーマ1「大都市中心エリアを対象としたオールハザード対応キットの開発」
1-1_大都市中心エリアを対象としたオールハザード対応キットの開発 村上正浩・境野健太郎・藤賀雅人
1-2_VR,動画像解析,視線計測を利用した都市災害時の対応モデル,訓練ツールの開発 福田一帆・小西克己
1-3_建築分野におけるAR・VR技術の基礎的研究 石田航星
→各テーマの詳細(PDF)

テーマ2の進捗報告

地域拠点施設の選定と構造・非構造のモデル化、および、大加速度・大変位振動台の仕様を決定した。地域拠点施設としての超高層建築として、工学院大学新宿校舎(S造28階建て)を対象に、非線形応答解析モデルを作成し、南海トラフ巨大地震による長周期地震動や、首都直下地震による震源近傍強震動に対する地震応答解析、および、効率的な制振ダンパー配置について検討した。また東日本大震災で被害を生じた鉄骨造体育館の置屋根構造支承部の力学的特性に関する研究を実施した。さらに非構造部材として、スプリンクラーを支持する吊りボルトの耐震性能、PC板シーリング材の劣化度と損傷リスク評価、壁タイルの浮き状況調査と剥落時損害リスクの算定等に関する研究を実施した。
テーマ2「機能継続・早期復旧を可能とする大地震対策建築モデルの開発」
2-1_機能継続・早期復旧を可能とする大地震対策建築モデルの開発 山下哲郎・田村雅紀・久田嘉章・西川豊宏
2-2_レジリエンスな社会構築のための地震動評価と建築の被害低減策 久田嘉章
2-3_機能継続・早期復旧を可能とする大地震対策建築モデルの開発 ~設備施設の耐震性能向上~ 西川豊宏
→各テーマの詳細(PDF)

テーマ3の進捗報告

D-ZEV(本体とD-ZEV mini)のシステム構成を決定した。具体的には、平常時・非常時にサイネージで発信すべき情報コンテンツと効果的な発信手法の検討、D-ZEVと災害対策本部施設との通信、及びD-ZEV miniどうしの情報のやり取りの手法を検討した。また太陽光発電設備として、D-ZEVの電力需要検討とそれに対応する太陽光発電・蓄電池設備の仕様を検討し、太陽集熱器の計算モデルの整備、D-ZEVに接続する仮設の医療・救護スペースの構成と内部の空気環境制御方法、集熱器計算モデルの整備とともに、太陽エネルギーのD-ZEV及び医療・救護スペースへの供給手法について検討した。
テーマ3「エリア防災拠点をつなぐ自立移動式災害対応支援ユニットの開発」
3-1_エリア防災拠点をつなぐ自立移動式災害対応支援ユニットの開発 中島裕輔
3-2_自立移動式ゼロエネルギー災害対応支援ユニット(D-ZEV)のための通信システム の基本検討 水野修
3-3_太陽熱集熱器モデルの整備 富樫英介・横山計二
3-4_自立移動式ゼロエネルギーユニットにおける電源供給システムの研究 野呂康宏
→各テーマの詳細(PDF)

4.自己点検・評価、外部評価の状況

以下に自己点検・評価、外部評価の状況を報告する

自己点検・評価

自己点検・評価として、平成28年度研究成果報告書を発行し、公開による成果報告会を2017年3月17日に実施、さらに下記2名の学内委員と研究参画者による自己点検・自己評価委員会を2017年5月19日に開催し、学内委員から下記の評価を頂いた。

学内委員

・総合研究所・機能表面研究センター長 鈴木健司 教授(工学部機械システム工学科)
・総合研究所・生体分子システムセンター長 今村保忠 教授(先進工学部生命化学科)

評価結果

コメントは別紙PDF参照
・非常に良い(優)=A、良い(良)=B、概ね適切(可)=C、改善が必要(不可)=D
評 価 項 目 テーマ1 テーマ2 テーマ3 全体
研究目的の明確性・必要性 A、A A、A A、A A、A
研究実施状況 A、B A、B A、B A、B
研究成果 A、B C、B C、C A、B

外部評価

外部評価として平成28年度研究成果報告書と成果報告会(2017年3月17日実施)をもとに、下記3名の外部評価委員に評価を頂いた。

外部評価委員(肩書は平成28年度)

・東京大学地震研究所・巨大地震津波災害予測研究センター長 堀 宗朗 教授
・横浜国立大学・大学院都市イノベーション研究院・都市イノベーション部門・佐土原 聡 教授
・新宿区総務部危機管理担当部長(平成28年度)・平井光雄 氏

評価結果

(→コメントは別紙PDF参照
・非常に良い(優)=A、良い(良)=B、概ね適切(可)=C、改善が必要(不可)=D
評 価 項 目 テーマ1 テーマ2 テーマ3 全体
研究目的の明確性・必要性 A、A、A A、A、A A、A、A A、A、A
研究実施状況 B、A、B B、A、B B、A、B B、A、B
研究成果 B、B、C B、B、C B、B、C B、B、C

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