工学院大学とは工学院大学の教育

産学連携型の新しい工学教育プログラム

テーマ名 主として総合的取り組みに関するテーマ
取組名称 「産学連携型の新しい工学教育プログラム」=ECP(Engineering Clinic Program)
キーワード 1.産学連携型教育  2.創造力  3.マネジメント力  4.コミュニケーション力  5.応用力

1.本取組の内容

(1) 取組の内容についての概要

世界経済のグローバル化が急速に進行する中、日本における企業の体質改善が緊急の課題となっている。従来、大学はその学生の教育に関し、社会、企業の要請に対して無関心であり、一方、企業側は大学の教育内容にあまり期待していなかった。各企業とも新入社員に対して入社後、企業内教育・研修プログラムを実施しているが、その期間は短くて3カ月、長い場合には2〜3年にも及んでいる。しかし上述のグローバリゼーション、加えて長期にわたる経済不況も加わり、日本の企業にはそのような余裕は最早なくなりつつある。このような状況下で大学側は今までのように時代・社会の要請を無視するわけにはいかなくなってきた。入社とともに即戦力となる応用力をもった実践型の学生を育成し、社会に送り込む事が急務となっている。特に技術者を育成する工学教育に関しては、その必要性は極めて高いと言っても過言ではない。

従来、大学の工学教育は、いわゆる教室における座学が中心で、知識を詰め込むことに重点が置かれており、その知識をいかに応用するかの訓練を行っていない。勿論、4年間の工学教育の中には実験・実習、卒業論文などがあり、教室で得た知識を応用する機会(実践教育)は与えられる。しかし現存の実験・実習、卒業論文などの実践教育カリキュラムは、卒業生が企業に入社して即戦力となるためには不十分な内容のものであると言わざるを得ない。このような社会的背景のもとで、大学において応用力をもった即戦力となる、実践型のエンジニアを育成しようという試みがここに述べる「産学連携型の新しい工学教育プログラム=ECP(Engineering Clinic Program)」である。

工学院大学の理念・教育目標の一つは「国際的に活躍できるエンジニアの育成」である。これまで大学全体(工学部全体)として本理念を遂行するために数多くの努力がなされてきた。インターンシップの導入を始めとして、人材育成を理念とした工学院大学産学フォーラム(AIフォーラム)の設立、科学技術振興調整費による新興分野人材養成(企業団体と協力してセキュアシステム設計技術者の育成を図る)など、産学連携型工学教育プログラムの基盤整備を押し進めてきた。特にその理念を集中的に実施するためのパイロットモデルの先駆けとなったものが1997年に設置された国際工学コース(現:国際基礎工学科)で実践した「グローバルエンジニアの育成」である。真のグローバルエンジニアとして必要な要素は上述の「応用力」だけでは不十分である。知識力(知力)としてはエンジニアとして必須の基礎科学(これを重視)・工学知識、人間力としてのコミュニケーション力【注】、国際感覚、創造力、マネジメント力を5つの必修要素とした。知力は大学の教員が従来どおり教育する。人間力の教育には外部の力、すなわち産業界の力を活用する必要がある。

【注】:卒業までの4年間で総計22単位、専門機関の協力のもと、ネイティブスピーカー指導による英会話・コミュニケーション力をつけるための科目=CSGE(Communication Skill for Global Engineers)を提供している。

このような観点から、産学連携型の新しい工学教育プログラム=ECPを創生し、パイロットモデルとして実施してきた。その教育効果は大きく、今までに見られなかった学生の活力となっている。ECPの最大の特色は、企業からテーマを提供してもらい、これに学生が挑戦するという点である。これらのテーマは現在、企業が抱える最新技術に関するものであり、殆どの学生は見たことも聞いたこともない。教室で勉強してきた知力を如何に応用するか、どのように解決するかを自分の頭で考える。さらに不足する知識は自分で修得する、すなわち自己学習をする必要がある(ここで得た自己学習能力は生涯にわたって役立つ)。企業からはテーマだけでなく各テーマの技術専門家(リエゾンと呼ぶ)の提供を依頼する。リエゾンは2〜3週に1回ほど来校し学生に対して技術指導をする。一方大学の教員(アドバイザーと呼ぶ)は大学での学習指導をする。しかし、いずれも学生に対して問題解決方法を教えることはしない。2年間、企業のトップのエンジニア及び大学教員に問題を解決するためのプロセスを徹底的に指導され、自分の力で解決する努力をすることにより人間力が育成されることになる。

ECPは産学一体となってそれぞれ得意とする分野の力を出し合って大学の工学教育を改革しようとする先進的な試みであり、その教育効果が極めて高い。本学では現在、ECPを工学部全体で実施する計画を検討中である。

(2) 取組の内容についての詳細・実施例

産学連携の研究活動は最近日本においても徐々に広まりつつある。しかし産学連携の教育を組織的に取り入れている大学は本学だけであろう。その意図するところは、外部の力(産業界の力)を活用し、社会、時代が要請する人材、即ち自分の頭で考えることが出来る、実践型で即戦力となる(グローバル)エンジニアを育成しようとするものである。

ECPは本学において正式なカリキュラム名である。2年生から開始し、卒業までの3年間の履修科目である。2年次には各種応用実験、三次元CADを習得する。即ち2年次に応用力に関しての導入教育を行う。3年次から実際のプロジェクトを開始する。各プロジェクトテーマに対して5人程度のチームを組む。学生はチームワークをもってテーマに挑戦する。ECPが成功するか否かの大きな鍵を握る要因は、良いテーマを採択するかどうかにある。現在進行中のテーマの一例を以下に挙げる。「新サイドミラーの設計」「輸液ポンプの改良」「DNAアレー技術」「遠隔外科鉗子の開発」「ナノ・マイクロセミコンセンサー(MEMS)の開発」「画像処理の高速化」「部品検査装置の改良」「タイヤ加工工程の改善」「燃料電池の改良」「粉塵測定装置の開発」などがある。どのテーマをとっても現在企業が抱える最新の技術問題である。学生はこれらのテーマを理解し、推進していくために必要とされる知識の補充のために、自分で3年次以降の履修計画をたてる。勿論それだけでは不十分であり、図書館、インターネットなどで数多くの資料を集め自己学習しなくてはならない。必要な知識を習得し、テーマを理解した後はいよいよ問題解決に頭を働かせる。柔軟な頭、新しい発想により、解決方法を考え出す。そのための計画、実験、解析、設計、評価など全て学生自身が実践する。リエゾン・教員は、指導はするが解決案を示すことはしない。学生は、それまで見たことも聞いたこともないテーマに対して、初めはどのように対処していいか全くわからなく戸惑うことが多い。しかし試行錯誤、苦戦しながら結果を出す。そのプロセスを経験し習得することによって、自らの知識を応用する力を身につけることになる。このことが実践型の即戦力をもったエンジニアの育成につながる。各学期の終わりには各チームとも全員が、リエゾン、教員、学生の前でプレゼンテーションを行う。卒業前には最終のレポートを提出し、企業にも配布する。

チームを組んでECPのテーマに挑戦するが、成績は個人単位となる。評価対象は「週間レポート」、「グループミーティング」、「プレゼンテーション(期末試験)」におけるリエゾン、教員、学生の三者による評価、「学期ごとのレポート(各自分担して執筆)」「学生同士の評価」などである。この中で最もウエイトが高いのが期末のプレゼンテーションで、特に学外からのリエゾンの評価、学生同士の評価は厳しい。

産学連携型教育プログラムであるECPの導入で特徴的な点は、卒論制度を廃止した点であろう。ECPを卒論の代わりとする理由は、学部の学生にはあくまで教育を行うことを主眼とし、研究室に取り込まないという点にある。

ECPをより完成した形とするためのカリキュラムが「ECP Abroad」である。ECPの課外授業として、米国カリフォルニア州Harvey Mudd College(HMC)のEngineering Clinicに参加し、同大学の学生と共同で米国のClinic Projectに参加する。更にすぐ隣に位置するPitzer Collegeが提供するEnglish Classを履修することによって日本で習得してきた英会話力を高いレベルに伸ばす。期間3週間で自費参加,毎年約15%がこのプログラムに参加している。英語が格段の進歩をすることは言うまでもないが、それより重要なことは同世代のアメリカの学生の勉強振りの「すごさ」を目の当たりにすることによる強い衝撃であろう。

今後ECPをさらに充実し、その成果をより大きなものにするため次のような改善、改革を計画中である。

その第一はECPを全学で実施することである。これまでも企業から提供されるテーマは機械系、メカトロ系のテーマだけではなく多岐に亘っている。「画像認識」は情報系、「タイヤの加硫工程の改善」は化学系、「輸液ポンプの改良」「DNAアレー技術」「遠隔外科鉗子の開発」などは医療工学系などがその例である。これらテーマは本学の他学科の学生にも容易に適用できるものである。

その第二は「ECPセンター」の充実・拡大である。現在は担当教員がテーマ確保のための対外的な交渉を行っている。これをECPセンターの専門職に任せる。また同センターの中にはECPの工作室、電気・機械部品・部材管理室を設け、学生がいつでも部品の加工、電気回路の組立が出来るようにする。

その第三は他大学と共同してECPコンソーシアムを設立することである。その利点は、まずテーマに関して一大学が奔走することなく、共同で、テーマを提供してくれる企業のデータベースを作成することが出来る点である。さらにECPの運営に関しても相互に協力して改善していくことが可能となる。

その第四は、現在任意参加となっている「ECP Abroad」を、全員参加の必修科目とすることである。全員参加を可能にするには、まず経費を授業料の一部として確保すること、また受け入れ大学(外国)を複数校に増やすことが必要となろう。現在、海外の10大学と学術交流協定を締結しているが、平成13年度からは経常費補助金対応で「海外留学ネットワークの確立」にも取り組んでいる。このような改善、取組が組織的になされることによって、産学連携型の工学教育プログラムはますます充実したものとなる。

現在、産学連携型の新しい工学教育プログラムを更に発展させるため、ECPセンターの充実を推し進めている。ECPセンターは、学生の創造活動の「場」の提供でもあり、本学と学外企業・卒業生との緊密な交流を図り、21世紀の科学技術の発展とこれを支える人材育成のためのフォーラムの「核」となるものである。

2. 本取組への組織的対応

国際基礎工学科(含前身の国際工学コース)の設立目的は、本学の理念の一つである「国際的に活躍できるエンジニアの育成」を実現するための、いわゆるパイロットモデル設立にある。設立にあたっては全学の主任教授会議、教授会、教授総会、教育委員会、教務委員会などの機関審議、決定がなされた結果である。勿論2001年に学科に昇格させる時点においては、文部省(当時)に所定の申請をし、認可されたものであることは言うまでもない。さらにECPを正式な科目として採用するにあたっても、学内においてその教育目的が十分に理解された結果、同様の手続きを経て正式に承認されたものである。

ECPの実施に際しては企業と大学の両方にまたがる運営が必要となる。すなわち、1)テーマの確保(セールス活動)、2)企業管理(各企業、リエゾンとの折衝・打合せ)、3)履修関係に関する業務がある。現在、国際基礎工学科の学生は約60名で、毎年10〜12のテーマを必要とする。テーマは同学科の教員のみならず、大学全ての教員、さらに学内の「リエゾンオフィス」、「就職支援課」などが対外的に活動して確保している。毎年ECPにおいて学生が出した結果に満足し、翌年もテーマを提供してくれるリピート企業が約半数存在する。残りの5〜10テーマを毎年、新規に確保する必要がある。幸いにして本学の教員の中には数多くの企業経験者がおり、テーマ確保の中心的な役割を果たしている。さらに支援体制を強化するために、人材育成のための工学院大学産学フォーラムを結成し、110有余の外部企業人、法人が参加している。現時点では実際に採用する以上のテーマが毎年寄せられている。テーマを提供してくれた企業に対しての管理、主として「機密保持契約」「知的財産権」そのほかリエゾンの日程調整(学生・教員とのミーティングの日程)、工場見学などに関しては実施を担当するECPセンターで管理している。契約書などの事項は大学の責任者(学長など)がこれに当たる。教務関係の仕事は勿論大学側の教務課の協力を得て実施する。

ECPに対しての大学全体の支援は、これら人的、組織的なものだけではない。経済・財政面での支援体制が1997年に国際工学コースをスタートした時点からなされてきており、現在も継続中である。主なものを挙げると[1]TECC(NC装置研究設備)の設立(1997年、10,000万円)、[2]可視化教育設備の購入(1999年、10,000万円)、[3]ECP専用コンピュータ装置(1999年、2,000万円)、[4]グローバルエンジニアの育成プログラムの確立(1997〜2001年、合計2,800万円)、[5]ECPの確立(2002〜03年、合計1,400万円)、[6]ECPセンターの充実(2003年度学内予算、8,000万円))が主なものである。なお上記[1]〜[5]までは私立大学等経常費補助金、私立大学教育研究高度化推進特別補助の対象となっているプログラムである。

このように「産学連携型の新しい工学教育プログラム」は、全学的な支援体制のもとに推進されており、本学の教育理念に沿ったものである。

現時点ではECPを実施しているのはパイロットモデルとしての国際基礎工学科であるが、大学(法人)としては、本パイロットモデルから得た6年間の実績から、ECPの教育効果が顕著な点を鑑み、これを軸に全学的にECPを実施するためにECPセンターの拡充、専用施設の確保に着手している。

3. 取組の実績

これまでにECPの授業を受けて卒業した学生は、本年3月で3回目となった。ECPが企業においてどのように役に立っているかは、長い目で見る必要があろう。しかし少なくともECPを受講した学生の就職状況はよく、これまでほぼ100%である。特に面接に対しての企業からの評価が極めて高い点は、ECPの効果が現れていると言ってよかろう(卒業後の追跡調査の結果による)。特に3年次の終わりから4年次の始めにかけての就職活動で、受講学生はすでにECPのプロジェクトをかなり進めている点で他の学生と大きな差異が存在する。「卒論研究(ここではECP)で何をやっているか」という質問に対して中味のある説明が出来る。しかもそれまでにリエゾンと数多くの議論の場をもって実力をつけたコミュニケーション力は他学生と比べものにならない。ECPのねらいとする「人間力」が、いかんなく発揮されている結果と言って良かろう。このような外部的な評価だけでなく、本学の学生に対する学内調査(工学院大学「学生相談室」)によると、「工学院大学に学んでよかったか」という質問に対して、「はい」と答えた学生の割合はECPを受講している学生の回答が、より高い数値を示している。

ECPの社会(企業)に対する成果として最も顕著な形の一つは特許であろう。ECPをスタートして5年目にしてはじめて、受講学生の研究成果が高い評価を受け、特許出願となった。本年度はさらに2件の特許出願の予定がされている。学生時代に自分の名前が特許に載ることの意味は名実とも計り知れない。学生の若い柔軟な頭をフルに活動させた結果であり、ECPの理念が実現し、高い教育効果を示している一例であろう。

さらに1999年度に発足した日本技術者教育認定機構(JABEE)による試行審査を経て、2001年度に本審査を実施した。同年日本で初めて3大学3学科がJABEEの認定を受けた。この中で私立大学としては工学院大学の国際工学プログラムだけである。JABEEの審査基準をクリアするために中心的な役割を果たしたのがECPである。JABEEの認定基準1(学習・教育目標の設定と公開)の中には幾つかのキーワードが含まれる。すなわち「多面的にものを考える能力」「技術者の倫理」「科学・情報の知識と応用力」「デザイン能力」「国際的に通用するコミュニケーション能力」「自主的、継続的に学習できる能力」「仕事を制約内で計画的に進め、まとめる能力」がそれである。これらはまさしくECPの教育目標(知力と人間力を併せ持ったグローバルエンジニアの育成)に沿ったものである。

また2002年度に日本工学教育協会からECPがユニークで効果的な教育方法であるとして、「産学連携型工学教育プログラムECP(Engineering Clinic Program)の推進と実践」の名のもとに工学教育賞を受賞している。

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学生、企業からのリエゾン、大学教員のミーティング

リエゾンによるプロジェクト講義

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