免震装置の設置がはじまりました

掲載日:2011/11/10

建築学部 建築学科准教授(構造担当)の山下哲郎です。

 

基礎の上に免震装置の設置がはじまりました。今後30年以内に南関東に直下型大地震が発生する確率は70%以上という予測がなされている中、今回の設計に採用されたのが「免震構造」です。

 

免震構造は、基礎と建物を切り離してしまい、間にアイソレーター(Isolator:Isolateは切り離す、の意味)という水平方向に柔らかい装置を入れ、地震による激しい地面の揺れが建物に直接伝わらないようにする画期的な技術です。アイソレーターは建物の重量を支える役割も担うため、ふつうは柱の下に設置され、薄い鉄板と天然ゴムを何層にも重ねて作られています(「ミルフィーユ」というケーキと同じ構造)。こうすることで、鉛直方向には固く建物の重量はしっかり支え、水平方向には柔らかく変形して地震の揺れを免れる、という2つの役割をこなすことができます。

 

ところで、なぜ柔らかく支えると地震の揺れを免れることができるのでしょうか。ゆれが一往復するのに必要な時間を「周期」と呼びます。建物は個性としてそれぞれゆれやすい周期(固有周期)をもっていますが、固有周期は建物の重さと水平方向のかたさ(剛性)により決まります。建物が重いほど、柔らかいほど固有周期は長くなります。柔らかい積層ゴムのアイソレーターに支えられる免震構造の固有周期はとても長く、ふつうは超高層なみの4秒程度です。

 

一方地震の揺れにも個性があり、東日本大震災の揺れのように、周期が短く揺れ幅が小さい小刻みな揺れもあれば、兵庫県南部地震のように周期は長めで地面の揺れ幅が数十センチにもおよぶ衝撃的な揺れもあります。しかしながらどんな揺れでも、建物の固有周期が地震動の周期と合うと、共振が発生し建物の揺れは劇的に大きくなります。

 

免震構造は固有周期が4秒ほどありますので、通常の大地震に多い周期1秒以下の揺れでは共振しません。また何より、周期4秒というゆっくりした揺れは加速度が小さい、という利点があります。Newton力学の基本であるF=ma(外力は質量と加速度の積に等しい)から、加速度が小さいと建物に作用する地震力も小さいのでまず建物自体がこわれにくくなります。それだけでなく、建物内部の人、家具、設備などに作用する地震力も小さいので、家具の転倒なども発生しにくく、地震後も健全な状態が保持できることになります。

 

ただし、固有周期の長い建物は地震のときの揺れ幅が大きい、という性質があります。また地震後もいつまでも揺れ続けると困ります。そこでアイソレーターだけでなく、ダンパー(Damper:Dampは減衰させる、の意味)という装置も使います。ダンパーは揺れのエネルギーを吸収して熱に変換し、揺れを減衰させる装置で、油圧式のオイルダンパーや鋼の塑性変形によるエネルギー吸収を利用した鋼材ダンパーなどが開発されています。今回設置されたアイソレーターのいくつかには、周辺に4台U型の金具が取り付けられています。これは鋼材を加工した「U型ダンパー」です。

 

ところで、東日本大震災の際、関東地方では最初の激しい小刻みな揺れのあとに、周期の長い弱い揺れが数分間続くいわゆる「長周期地震動」に見舞われ、超高層である工学院大学新宿校舎も長い間揺れ続けました。固有周期の長い免震構造も同じように長周期地震動の影響を受けやすいと予想されます。しかしながらダンパーが揺れのエネルギーを吸収するので、超高層ほど大きく揺れることはないでしょう。

 

このように免震構造はアイソレーターとダンパーの働きで大変優れた耐震性を発揮します。八王子地区が大地震に見舞われても、総合教育棟は工学院大学だけでなく、近隣の防災拠点としてその機能を発揮することでしょう。もちろんその日が来ないに越したことはありませんが。

 

アイソレータ、ダンパー

 

積層ゴムアイソレーター

積層ゴムアイソレーター

積層ゴムアイソレーター+鋼材U形ダンパー

積層ゴムアイソレーター+鋼材U形ダンパー

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