掲載日:2011/10/22

 建築学部建築学科教授(建築生産分野担当)の遠藤和義です。

 現在現場は、地下躯体工事が行われていますが、夏のゲリラ豪雨、猛烈な台風の二度の襲来等によって、当初の工程(工程スケジュール表)にくらべて2日ほど遅れているそうです(10月14日現在)。

 現在、所長以下一丸となって、対策をとっておられるので、近いうちに回復できると思っています。建築工事は天候をはじめ、資材の需給や労務事情の影響を受けやすく、こうした工程の変動はよく起こります。工期の厳しいこのプロジェクトでは、工期短縮を前倒しで計画し、次々と実施に移さねばなりません。建築プロジェクトマネジメントの研究者としては、現場がどのような選択をされるのかとても興味があります。現場を動かすのは、KKD(経験、勘、度胸)ではありません。毎日が理詰めの意思決定の積み上げです。

 さて今回は、地下躯体工事を実施するために外周部に設置されている山留め壁について見てみたいと思います。何もせずに地面に穴を掘る(根切りと言います)と、重力によって穴の外周部から土が穴の内側に崩れます。山留め壁とは、この崩壊を防ぐために外周部に設ける仮設の壁です。これは設計者の描く図面にはありませんので、現場が判断して方法を決定します。

 写真1の左手にあるように、根切りが浅ければ、外周部に斜面(法面(のりめん)と言います)を設ける「法切り工法」でも崩壊を防げます。安定した法面の角度は安息角(あんそくかく)よりも小さくしなければなりません。安息角とは地面が自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の角度で、その粒度、含有水分、粒の形状などの影響を受けます。

写真1:左側は法面による法切り工法、正面は親杭横矢板工法

(この現場も本学の過去のプロジェクトです。さてどこでしょう?)

 この現場では、山留め壁に写真1正面に見える「親杭横矢板」という工法が採用されています。I型鋼を打ち込んで親杭とし、根切りしながら外周部の親杭の間に板を差し込んで造ります。最も一般的な山留め壁の構築方法です。

 これでも根切りが深いと、山留め壁を自立させるのが難しくなります。そのため、必要によって写真2のように向かい合う山留め壁の間に切梁(きりばり)を渡し、それを支え棒として山留め壁の崩壊を防ぎます。ただし、今回の敷地にはもともと高低差があり、切梁が効果的ではありません。

写真2:水平切梁による支保工 

 そこで、この現場で採用されているのが、写真3にある「アースアンカー工法」による支保工です。

写真3:アースアンカーによる支保工(さらに根切りし、横矢板挿入中)

 写真4から7はその施工の様子です。まず、45°下向きに穿孔してケーシング(さや管)を挿入します、そこにアースアンカーを挿入し、セメントミルクを圧入してアースアンカーを固定します。アースアンカーは山留め壁に抱かせた腹起こしとブラケットで引張させます。

 地下躯体工事が終了したら、山留め壁の解体とともにアースアンカーも引き抜きます。アースアンカー工法は敷地に高低差のある場合だけでなく、根切りする面積が広くて切梁が効きにくい場合、一部先行して山留め壁の解体を進めたい場合などにも有効で、これらの利点はこの現場でも生かされています。

写真4:アースアンカー体(約18m)です

写真5:アースアンカーは45°で穿孔して挿入する

写真6:アースアンカーを地中に固定するためセメントミルク圧入中です

写真7:親杭に固定した腹起こし(図中の赤茶色の横材)とブラケットで引っ張ると写真3になります

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掲載日:2011/10/17

ポンプ打設

ポンプ圧送されるコンクリートの打設状況

 今日は,現場にいる皆様のご協力のもと,新総合教育棟の構造体に使用するコンクリートの採取(第1回目)を,田村研究室・卒論生である岡君とともに行いました。地球材料であるコンクリートに愛着を持ち,日々その存在に感謝をしながら日常を送っている私としては,この瞬間は,あえて例えれば,すくすく成長しつつある赤ちゃんを保健所につれてきて,保健婦さんに定期健康診断をしてもらっている赤ん坊を見つめるママ(パパ)の気分?であり,かなりドキドキが混じります。

 実際に,その場で判定されるまだやわらかいコンクリートの諸物性(打設しやすさの尺度となるスランプ値,コンクリート中に含まれる空気量ほか)は,日本工業規格(いわゆるJIS)の基準を満足する必要があり,満足しない場合は,建築基準法の第37条の要件に合致しない不良なコンクリートと見定められてしまいます。また,硬化した後のコンクリートについても,所定材齢で圧縮強度試験を行い,基準とする強度が得られているかをしっかり検査・判定されるのです。

 しかも,これらの検査は,自分でやって,自分で勝手に評価をしては駄目なのですよ。第三者である指定確認検査機関により評価される必要があるのです。構造体コンクリートの最初の船出の大きな関門といえましょう。

 建築というものは,「巨大物品・単一生産品」で,他産業分野によく見られる「小物品・大量生産品」と相違し,ひとつひとつの建物が無事生まれてくるために,最初で最後の勝負を施工現場で常に繰り返しています。そのために大切なことは,建物の要素となるひとつひとつの材料や部材の品質をくまなく現場で見てあげることです。そうすれば最終的に,何十年・何百年という構造体の物理的寿命を保証することができ,建築として巣立つ第一歩を踏み出すことができるのです。

・・・岡君,今日はご苦労様でした。春からは希望の現場施工の仕事ですね。腕をふるってください。

田村雅紀・建築学部建築学科 「建築材料担当」

 

コンクリート供試体の確保

研究室・卒論生の岡君−緊張の作業−

 

供試体詰め込み

強度検査用・構造体コンクリートの採取

 

コンクリート確認

フレッシュ性状の確認よし!

岡君の今日のコメント:

「忙しい卒論の研究が激しさを増す時期となってきました。現在コンクリート関連の研究をしており、総合教育棟の施工現場でコンクリートを採取する貴重な機会を得ることが出来ました。現場の方々の前で採取作業をしていると、自分の作業が正しいのか不安になりましたが、無事に作業を終えることが出来ました。施工現場は、工期という時間の制約の中で作業をする緊張感と,職人の方の活気に包まれている場所だと強く感じます。今回の経験はとても貴重なものであり、ますます建設業の対する好奇心と遣り甲斐が強くなりました!私も春からは,筋の通った現場マンを目指します。」

 

 

Tags:コンクリート, 構造体コンクリート
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掲載日:2011/10/14

工学院大学八王子キャンパス総合教育棟新築工事の施工にあたって

 

                           大成建設株式会社東京支店 作業所長 種元賢弘

 

種元作業所長

 「現場の魅力は何ですか。」よく受ける質問の1つです。建築物は、工業生産品の1つではありますが、その性格は非常に特殊であると言えます。まず単品生産である点、企画や設計、施工中においてエンドユーザーがその過程に深く関与する事です。皆さんが手にする多くの工業製品は、完成形を選択する事しか出来ませんが、建物は完成形を関係者の協力や努力により、作り上げていくものと言えます。

 施工者は、関係者のいろいろな情熱を最終的に受け止める受け皿のようなものであると考えています。

 本来の意味でのモノつくりのダイナミズムが現場で体感できるのは、このような理由であり、現場の魅力とは、ここに集約されます。

 スチューデントセンターから現場の状況が良く分かります。日々刻々と変化する現場を、少し足を止めて眺めてみて下さい。少しずつ完成に近づいて行く現場を感じ、このプロジェクトに関わる人々の情熱に想いを馳せてみて下さい。その瞬間に皆さんも作り手の1人になるのではないでしょうか。

 最後に工事中の安全確保には、細心の注意を払います。ご不便をお掛けすることがあるとは思いますが、ご理解、ご協力をどうぞよろしくお願いします。

Tags:作業所長, 現場
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掲載日:2011/10/13

 建築学部建築学科教授(建築生産分野担当)の遠藤和義です。
 総合教育棟建設工事は在学生の皆さんが将来活躍する建設業界でも大変注目されています。日刊建設通信新聞社様のお許しをいただいて主な記事を紹介します。業界紙やそのHPは建設業界のいまを知る大事な情報です。本学教員の活動が掲載されていることもあります。ぜひアクセスしてみて下さい。
建築通信新聞2011.4.1
建築通信新聞2011年4月1日4面

 

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掲載日:2011/10/09

 建築学部建築学科教授(建築生産分野担当)の遠藤和義です。

 私の研究分野の1つである建築プロジェクトマネジメントにおいて、施工者選定方式は重要なテーマです。現在、私は国交省をはじめとするいくつかの発注者で入札監視や施工者選定方式の検討に関連する委員会に出席しています。

 2001年以降、わが国は厳しい財政事情を背景に公共投資の削減が続いています。そのため、公共工事で不適格業者の参入によるいわゆるダンピング受注や、不良工事の発生など、その品質確保に懸念が高まってきました。

 このような背景を踏まえ、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が2005年4月に施行されました。この法律では、公共工事の品質は、「経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない」と規定しています。

 投資額の減少による競争の激化は民間工事も同様です。本学は私学ではありますが、こうした状況と毎年約300名の卒業生を建設関連業界に送り出している責任をふまえて、総合教育棟の入札参加者に配布された要領には以下の施工者選定に込めた思いが盛り込まれました。

 「総合教育棟は創立125周年記念事業の一つとして建設される八王子キャンパスの中心施設であり、創立125周年記念事業にふさわしい施工業者選定のプロセスが必要だと考えている。学園を支える在学生、卒業生などの関係者にとって価値が最大となるような建設事業とするため総合評価による選定方式を採用したい」

 ここではその思いの内容を具体的にご紹介しましょう。

 まず入札に参加出来る条件を以下の様に設定しました。

@直近5年間の同様建物(免震構造、規模等)の施工実績

A直近5年間の本学卒業生の採用実績

B学園創立125周年記念事業への募金実績

 @は当然として、Aは本学の教育内容、卒業生を評価し、Bはこの記念事業に賛同して下さっている企業に発注したいという思いです。本学は今後も八王子キャンパスを中心にいくつかの工事を予定しています。在学中の皆さんの今後の就職活動にもプラスの効果があるはずです。

 総合評価の提案項目は以下の通りです。

@協力会社(サブコン、解体施工会社)を含む企業の施工体制

A配置予定技術者の実績(業務経験)

B施工計画の安全性に対する取り組み(解体工事の安全、粉塵対策を含む)

C工期短縮の工夫

D建設事業を本学の教育に活かす工夫

E2006年度以降における工学院大学卒業生の採用実績

 なお評価は、外部からも評価者を招聘して厳正に行いました。入札に参加された企業からは非常に充実したご提案をいただきました。評価値は下記の除算方式で求め、それが最も高い業者を選定しました。

評価値=(標準点+加算点)/(入札価格−募金額※1)

 ※1:評価値の算出に当たっては、学園創立125周年記念事業への募金額を入札価格より差し引きました。実際の請負金額では、当然この額は差し引かれません。

 提案項目の目玉はDです。敷地がキャンパスの中心にあることは、プロジェクトの遂行に当たって安全確保や騒音・粉塵対策など、施工者にとっても学生、教職員にとっても様々な難しい課題となりますが、それを逆手にとって、現場を積極的にオープンにして、教材として生かそうという狙いです。このブログもその目的に沿って、大成建設さんをはじめとするプロジェクトメンバーからの情報提供によって運営されています。

 Eは入札に参加された企業に在籍する本学卒業生に対する、自らの存在価値を再確認して頑張っていただきたいという本学からのメッセージです。

 このブログでは、大成建設さんからの「教育に生かす工夫」のご提案に基づいて、インターンシップや各種見学会等の案内もしていきますので、どうか注目して下さい。

いよいよ地下躯体工事が始まりました。

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