「工学院大学旧白樺湖学寮 白樺湖夏の家」が第18回「JIA25年賞」を受賞

2019/05/08

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4月24日、建築家会館1階ホール(東京都渋谷区神宮前2-3-16)にて2018年度公益社団法人日本建築家協会表彰式典が執り行われ、六鹿正治会長より「JIA25年賞」の賞状を拝受しました。

「工学院大学旧白樺湖学寮」は、工学院大学建築学科大学施設委員会(意匠:武藤章、構造:十代田昭二、設備:中島康孝)が設計し、卒業生が経営する橋場建設株式会社(現、ハシバテクノス株式会社)が1968年に施工して山の家として長く利用されていた学寮です。2016年の閉鎖にともない、工学院大学校友会・建築系同窓会が土地と家屋を引き継ぎ、これまで増築した部分を減築して「白樺湖夏の家」として継承、保存、活用を始めました。

「JIA25年賞」は、公益社団法人日本建築家協会が「25年以上の長きにわたり、建築の存在価値を発揮し、美しく維持され、地域社会に貢献してきた建築」を登録し顕彰する賞です。多様化する社会の中で建築が未来に向けて生き続け、建築の果たすべき役割を確認するとともに、次世代につながる建築のあり方を提示する建築として選ばれました。

  • リビングから暖炉を望む

  • 一期工事の姿に減築した外観

  • 昔の白樺湖写真

審査講評

工学院大学旧白樺湖学寮 白樺湖夏の家
1968年竣工/長野県茅野市
建築主:工学院大学(2017年より校友会・建築系同窓会が継承)
設計者:武藤章(故人、元工学院大学教授)
施工者:橋場建設(現ハシバテクノス)

「白樺湖夏の家」は、白樺湖の南側に拡がる森に囲まれた別荘地の北西下がりの敷地に建っている。道路から少し低いところにある建物の南側外観は、2階の床と東西の壁までがRC造なのだが、間口いっぱいに拡がる2階個室群の木製建具と深い軒が、平入りのせがい造りにも似た、低く抑えた印象的なプロポーションを見せる。屋根は切妻を棟で割って北側を少し下げたように掛けられていて、ずれた部分の上部をスカイライトとして屋根を軽やかに浮かせている。白樺湖を望む北側の吹き抜けた大空間(リビング)は、柱と梁が鉄骨造。鉄骨部分はコンクリートの壁と共に漆喰で白く表現され、床や壁、建具の木部との明確な対比を意図したことが見て取れる。設計は当時同大学の助教授であった武藤章(1931 - 1985)ほかによる。武藤は1961年にフィンランドに留学し、アルヴァ・アアルト(1898-1976)に学んだ唯一の日本人建築家であり、学寮は帰国後まもなく手掛けた作品だった。アアルトから吸収した北欧モダニズム建築のエッセンスを、独自のプロポーション感覚により、自らの手法として昇華させた優れた建築である。1968年に「工学院大学白樺湖学寮」として竣工した後、学生たちの合宿などの宿泊施設として永く使われてきた。しかし、利用者の減少と維持管理費(特に常駐管理人と冬期の燃料費)が施設の運営を圧迫し、2016年に大学は学寮を閉鎖。建物は解体の危機を迎えた。そこへ鈴木敏彦教授を中心にOB有志が動き、校友会と建築系同窓会が大学から土地の借地権と建物を引き継ぐことに漕ぎ着けた。この背景には、武藤の代表作「工学院大学八王子図書館」(1980年)が保存の訴えむなしく2015年に解体されたことがあった。「白樺湖夏の家」は、オリジナルに復することだけが保存ではないこと訴えている。保存活用にあたっては、武藤の設計である増築部分をあえて減築。夏期のみ使用することにして暖房設備を撤去。将来に向けて維持管理のコストを抑えた。さらに、減築によりなくなったシャワー室とトイレを新設し、厨房をダイニングキッチンに改造した。もうひとつの大きな改変は、「北欧デザインを体験する場」というコンセプトにより、既存の照明と既成家具を撤去し、アアルトのヴィンテージ家具什器と照明で一新したこと。アアルトのミュージアムという新しい価値を加えた。アアルトへのオマージュは、武藤の望むものであったに違いない。

講評:大森晃彦
JIA25年賞