楕円銀河M87の中心から噴き出すジェットには、約11年周期の歳差運動や約0.9年周期の横方向の揺れといった周期的な動きが、東アジアVLBIネットワークの観測により明らかになっています。紀基樹客員研究員(教育推進機構)の参加する国際研究チームが、これらの動きがM87中心の巨大ブラックホールのまわりを第2のブラックホールが公転していることによると仮定し、その場合に想定される第2のブラックホールの質量を理論的に導き出しました。近年、NANOGrav(ナノグラブ)コラボレーションによる重力波観測により、巨大ブラックホール連星が放つ重力波が宇宙全体に広がる「背景重力波」として検出されている可能性が指摘されており、本研究チームはその理解を深めるためにM87に特に注目しています。今回の成果は、巨大ブラックホール連星の存在を直接検証するための今後の観測戦略にとって重要な指針となるものです。
本研究をリードした紀客員研究員は「銀河の合体と進化に関する理論モデルは、近傍に存在する巨大ブラックホール連星が背景重力波に大きく寄与していることを示唆しています。このことが、本研究を進めるきっかけとなりました。今後の観測で、M87ジェットの根元の動きを高解像度で精密に計測することで、巨大ブラックホール連星の存在を直接検証できるかもしれません。」と今後の可能性を語りました。
今回の成果は、Kino et al. “Constraining the Mass of a Hypothetical Secondary Black Hole in M87 with the NANOGrav 15 yr Data Set” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』 に2025年6月5日掲載されました。