田畑絵理客員研究員が、肉食性動物でキチンの分解能力が失われた原因を解明

2021/12/17

  シェアするTwitterでシェアFacebookでシェアLINEでシェア

田畑絵理客員研究員(生命化学科、日本学術振興会特別研究員(PD)、2020年度本学化学応用学専攻修了)と小山文隆教授らのグループは、昆虫の外骨格「キチン」を分解する酸性キチナーゼ(Chia)が、肉食性動物でその機能が失われた原因を解明しました。今回の成果は、ほ乳類の食性と進化の解明や、昆虫の家畜飼料利用につながる重要な発見です。この成果は、国際学術雑誌 “Molecular Biology and Evolution”の電子版に公開されました。

小山文隆教授(先進工学部長)コメント

日本学術振興会特別研究員の田畑さんは、これまでに、本学大学院で様々な動物について、Chiaのキチン分解能と食性の関係を研究してきました。そして、キチン分解能力の高いブタやニワトリに、昆虫を飼料として与えるための基礎データを示してきました。今回報告した研究では、キチン分解能力の低い動物に焦点を当て、なぜその機能が失われたのかについて、生化学、分子生物学的手法に加え、分子進化学の観点からその原因を明らかにしました。この成果は、生物としての進化やSDGs目標「2:飢餓をゼロに」や「15:陸の豊かさも守ろう」にも密接に関係するため、国際的に高く評価されたと考えられます。

今回の研究は、テーマの発掘から学術的な問いの解明までを本学内で進めた”工学院大学を基盤とした研究“です。その研究が、評価が高く、影響力のある国際学術雑誌に掲載されたことは、素晴らしいことです。

なお、田畑絵理研究員は今回の研究内容で第11回(令和2 (2020) 年度)日本学術振興会育志賞を受賞しています。

研究概要

酸性キチナーゼ(Acidic Chitinase, Chia)は、昆虫や甲殻類の外骨格を構成するキチンを分解する酵素です。同研究グループは、以前、動物の食性(何を食べるか)が、Chia の合成量と活性に関わり、肉食性動物のイヌChiaはキチン分解能力が低いことを報告しました。今回、どのようにイヌChiaの機能が失われたのか、その原因を解明しました。まず、肉食性で活性の低いイヌChiaと雑食性で活性の高いマウスChiaとの間でキメラタンパク質、変異体を作製し、イヌChiaの活性化を行い、不活性化の原因となる2アミノ酸を明らかにしました。次に、そのアミノ酸を手掛かりに、イヌが属する食肉目46種の Chia の遺伝子と酵素活性を解析し、以下の三点を解明しました。①イヌ科ではChiaを有しているが、活性は低い、②イヌ科を除く昆虫を食べない 32種ではChiaは機能しない遺伝子に変化した(偽遺伝子化)、③昆虫を食べるスカンク、ミーアキャットのChiaは完全な構造を保持し、高い活性を示した(図)。以上のイヌと食肉目動物の研究で、「昆虫を食べる種のChia が現在でも活発であるのに対し、昆虫を食べない種のChiaは不活性分子に進化した」と結論づけました。

昆虫は栄養価に富み、新規の家畜飼料源として世界的に注目されています。昆虫の分解に関わるChiaの活性化は、動物に昆虫を投与するための契機となり得ます。今回イヌで用いた実験手法を用いれば、ウシをはじめとする草食性動物のChiaの不活性化の原因を解明できます。その結果、昆虫の家畜飼料化に道筋をつけることができます。

  • 現代の肉食性動物(右)は、食虫性のほ乳類祖先(左)から進化した.昆虫を食べなくなったイヌ科のChia は、2アミノ酸置換により不活性化し、それ以外の種はタンパク質コード領域の喪失により機能を失った.他方、昆虫を食べる種は活性型 Chia を保持していた.

論文情報

論文タイトル Noninsect-Based Diet Leads to Structural and Functional Changes of Acidic Chitinase in Carnivora (和訳:食肉目動物は進化の過程で昆虫を含むエサを食べなくなり酸性キチナーゼ (Chia) の構造と機能に変化が生じた)
著者 Eri Tabata, Akihiro Itoigawa, Takumi Koinuma, Hiroshi Tayama, Akinori Kashimura, Masayoshi Sakaguchi, Vaclav Matoska, Peter O. Bauer, Fumitaka Oyama
田畑絵理(日本学術振興会特別研究員(PD)、本学客員研究員)、糸井川壮大(京都大学霊長類研究所)、鯉沼拓海、田山拓史(以上、本学生命化学科学部生)、樫村昭德(本学客員教員)、坂口政吉(本学准教授)、Vaclav Matoska、Peter O. Bauer(以上Homolka 病院(チェコ共和国))、小山文隆(本学教授)
掲載誌 Molecular Biology and Evolution
※Molecular Biology and Evolution は、分子生物学と進化生物学のあらゆる領域を対象とした国際学術雑誌で、オックスフォード大学出版局より出版されています。Thomson Reuters 2020年度の Impact Factor は 16.240 で、High Impact Journalです。
研究費 日本私立学校振興・共済事業団 2019~2021年度 学術研究振興資金
第11回育志賞受賞者一覧
生物医化学研究室:肉食性動物における酸性キチナーゼ (Chia) の進化の過程を解明
生命化学科オリジナルサイト
化学応用学専攻