数理解析研究室(情報科学科)が、現代画家と共創した作品を出展

2023/04/03

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数理解析研究室(指導教授:竹川高志 教授)は、シミュレーションと機械学習を組み合わせることで、現代画家が描く海の絵がそのまま動いているような動画を作成する技術を開発、3月31日から開発した技術を利用した共同制作作品を個展で展示しています。

同研究室では、信号処理・統計解析などを駆使して隠れている情報を引き出し、背後にある原理を見つけ出す技術を開発しています。たとえば物理現象と社会における人の動きなど、一見無関係な現象も数理モデルを使って記述すると、驚くような共通点が発見できることがあります。

研究の一環として、2022年より、アーティストの尾潟 糧天 氏が描く海の絵画を、シミュレーションやAI技術を利用して動画として拡張する技術に取り組んでいます。初期の研究成果を元に学生が作成した、キネティックウォールと連動し音環境に対応して変化する作品「アートと技術の海」は、壁フェス Kinetic Wall Festival 2022で最優秀賞を受賞しています。

3月末から公開される作品は、壁フェスの時点から生成される動画の品質を大きく向上させ、各フレームにおいて尾潟氏の絵画の特徴をより忠実に再現しつつ、海のリアルな動きを高い解像度で実現しています。複雑な海面の形状と動きを複数の単純な波の組み合わせで表現し3DCG技術によりリアルな動画を生成する一方、泡の部分の動きについてはあえて直接的な物理モデルを想定せず、尾潟氏と対話を繰り返すことで尾潟氏の持つイメージをモデル化しシミュレーションにより再現しました。さらに、機械学習(CNNを用いたGANによる学習)を用いて実際の絵画のデータを取り込んで再現することであたかも尾潟氏が1枚1枚描いたかのような動画となっています。多くの方に見ていただくことで、情報学に対する専門知識の有無にかかわらず、人間の認知と数理モデルの関係性や応用可能性を感じていただけることを期待しています。

  • 会場の様子。奥の縦長の3枚モニタが研究室による作品です。
出展コメント:工学院大学 数理解析研究室 竹川高志 教授
海の動きは極端にミクロな立場を取れば、水分子一つ一つの動きに還元される。流体力学では多数の水分子の動きを圧力として捉えることで現象をよりわかりやすく再現できる。さらに条件をつけて簡単化すると、単純な形で決まった方向に進む多数の波がお互いに干渉しながら進んでいると理解することができる。このような理解にたてば、例えば交差点を多くの人が歩いている状態と海の形は同じような数学的記述で同一視することができる。
一方で、波の高さや水平方向での大きさに応じて移動速度などが物理的に拘束され、その条件が人間にとっての「自然さ」を生じさせている。この作品では、海面の動きを風などの条件と物理法則に制限された有限個の波の組み合わせで再現し、Ray Tracing により海面の色や太陽光の反射を映像化している。
また、海面には波のぶつかり合いにより泡が生じ、漂っている。本作品では、あえて泡を正確な物理モデルとしてではなく、波がぶつかると泡が生じ拡散移動するという概念ベースのシミュレーションで生成することとし、尾潟氏がイメージする泡を再現するためのパラメータを調整するという方法をとった。さらに尾潟氏の描く泡のテクスチャや輪郭を Convolutional Neural Network (CNN)とGenerative Adversarial Network (GAN) を組み合わせた技術で学習させ、シミュレーションで得られた泡に反映させた。計算機により動的に無限に生成される海面の状態と人間の持つイメージを融合した作品といえる。

■ 同研究室が出展する展覧会について

展示会名 PHYSIS(尾潟糧天氏個展)
会期 2023年3月31日(金)-4月30日(日)
会場 青山 MA5 gallery
該当作品名 Solaris