「アクティブラーニング」が 生徒にもたらす変化

「アクティブラーニング」が 生徒にもたらす変化

学園ドラマ「先に生まれただけの僕」にも登場する教育手法
2017 / 10 / 12
10月14日(土)より学校教育のあり方を問う学園ドラマ「先に生まれただけの僕」が日本テレビ系で毎週土曜日22時に放映されます。

これまでの学園ドラマとは異なり、“教育を施す、教師たちの人間物語”を掲げる本作品。嵐の櫻井翔さん演じる元商社マンの校長先生が、周囲の先生を巻き込み、新たな教育を模索していく物語です。
作品内では、実際に今注目を集めている教育手法「アクティブラーニング」を、先生たちが実践していく場面も描かれています。
英語授業の監修を担当されたのは、2015年に開設した新コース「ハイブリッドインターナショナルクラス」を開設した際に担任として着任し、現在は中学校の教頭を務め、アクティブラーニングを牽引してきた高橋一也先生。高橋先生は、2016年にはグローバル人材教育に貢献した教育者を表彰する「グローバル・ティーチャー賞」において、世界148ヵ国、約8,000人から最終選考者10人に選出されるなど、優れた功績は国内外で高く評価されています。 
 
他校に先駆けてアクティブラーニングを導入してきた工学院大学附属中学校・高等学校で、生徒たちは日々どのように学び、成長を遂げているのでしょうか。高橋先生のアクティブラーニングに対する想いや同校の教育プログラムの特徴、生徒たちに訪れた変化についてお話を伺いました。

生徒の個性を前提として“対話”から始める

高橋先生はアメリカの大学院で、教育を設計・開発するための方法論、インストラクショナル・デザインの研究に従事されました。その後、2015年に工学院大学附属中学校・高等学校に英語科教諭として着任し、2016年からは中学校の教頭として、国内外の教育理論やICT、デザイン思考をベースに独自のアクティブラーニング教育を推進されています。
 
高橋先生が考える、教育の最も基本的な要素は、対話を起点とした授業の設計です。
 
「生徒たちがそれぞれ異なる着眼点を持っていることを前提とした上で、対話を重ねながら授業を展開していく姿勢がアクティブラーニングには不可欠です。先生からその日の授業内容を一方的に伝えるのではなく、生徒の疑問に合わせて先生が必要な情報を提供するボトムアップ型の授業です。」
 
対話から始まる学びのあり方は、アクティブラーニングを軸とした同校の教育プログラム「21世紀型教育」にも反映されています。プログラムの中心となるのは、講義に対話を導入するPIL(Peer Instruction Lecture・対話型授業)と、生徒が自ら設定した課題の解決に取り組むPBL(Project Based Learning・課題解決型授業)の2つ。
 
生徒が自身の関心に基づいてテーマを設定し、周囲との協働作業を通して課題解決を行うプロジェクト型の授業を中学1年生から6年間通して行います。

「考え、作り、共有する」視点を子どもたちに

 同校プログラムで特徴的なのは、“THINK, MAKE, SHARE(考え、作り、共有する)”という視点です。これは、人はモノを作ることによって学ぶという、MITのシーモア・パパート教授が唱えた構成主義(コンストラクショ二ズム)にもとづいているそうです。
 
生徒たちは自ら探究した結果を、実際に見たり触れたりできるモノとして表し、授業以外の場で成果を共有してきました。
「以前『芸術はどう人生に影響を与えるのか』をアートの形で発表するという課題を与えました。生徒は各教科の先生と意見交換を通じて考えを深めていきます。最終発表では絵を描いたり劇を演じたりと多様な表現が集まりました。」
 
モノで表現することによって、他者とのコミュニケーションを図るきっかけにもなります。「生徒たちが成果物を作って授業の外でも共有すると、教室の外にある社会との接続を感じられます」と高橋先生は語ります。
 
中学2年生が平和を学ぶ授業の一環として平和に関する映画を制作。作品を「国際平和映像祭(UFPFF)」に応募したところ、あるグループの作品が、大学生や一般の方と肩を並べ、ファイナリスト11作品の1つとして選ばれました。

アクティブラーニングによって生徒に訪れた変化

アクティブラーニングを通して、生徒たちは「能動的に学び続ける力」を身につけていると、高橋先生は彼らの変化について話してくださいました。
 
「以前、プロジェクトに対して一所懸命な生徒に『どうしてそんなに頑張れるの』と聞いたら、『これは私のプロジェクトだから』と答えていました。学校での勉強に当事者意識を持って取り組んでいるんです。
 
他にも、自分で調べて社会人顔負けの資料を準備してきたり、趣旨や目的が明記された企画書を私に提出してきたりと、生徒の成長にはいつも驚かされています。能動的に学ぶことで、子どもたちは大きく成長します。」
能動的に学ぶ姿勢は生徒の進路選択にも変化をもたらしています。英語もプログラミング技術も身につけた上で、『学びたい分野を教えてくれる先生が日本にいないから』という理由で、留学を志す生徒もいるそうです。高橋先生は、生徒たちが既存の価値観に縛られず、将来と向き合っていると語ります。
 
「従来は『良い仕事を得るために大学に行こう』が当たり前でした。しかし、今教えている生徒の中には、プログラミングや映像製作など、大学に行かなくても仕事を得られるスキルを常に磨いている子達がいます。彼らの進路は国内の大学進学だけではなくなっていくでしょう。」
 
より幅広い選択肢に出会えるよう、高橋先生は多様な大人と接する機会も積極的に設けています。例えば、隣接する工学院大学の教授から生徒に直接研究内容を共有してもらったり、ベンチャー企業の社員さんからサービスについてのデモを行っていただくこともあるそうです。
「知識を得る楽しさを知り、能動的に学ぶ姿勢が身につけば、生徒の人生は確実に変わっていきます。これまで生徒にとって、学校名や試験点数が将来を設計する際の基準でした。しかし、『自分が何に興味を持っているのか』、『そのために何が必要なのか』を示してあげると、やりたいことをベースに将来を考えられるようになります。」
 
高橋先生の実践するアクティブラーニングを通して、生徒は自ら問い続ける力とコミュニケーション能力を育み、卒業後も糧となる能力を育んでいました。
 
自らの興味を元に課題や疑問を見つけ、解決のために周りと協力し合える生徒たちは、これから従来の枠組みに囚われない活躍を見せてくれるはずです。

文/向晴香