コロナで授業どう変わった?

コロナで授業どう変わった?

先生×学生座談会#1
2020 / 12 / 23

激動の一年を振り返る

2020年は、日常生活においても大学生活においても、変化がとても大きい一年でした。
前期期間はすべてオンライン授業となり、学生のみなさんはもちろん、そして先生たちにとっても試行錯誤の毎日でした。夏期特別授業・後期授業期間は、一部の授業がキャンパスで実施され、少しキャンパスに笑顔が戻りました。
 
今回の窓では、授業に焦点を絞り、ベストティーチャーの表彰を受けた田村雅紀先生(建築学科)、受講学生5名とともに、激動の一年を振り返ります。
※工学院大学では、学生が受講した授業を全てアンケート評価しています。学生からの感想や教育効果が優れている教員を、毎年2名表彰する制度がベストティーチャー表彰です。
インタビューは、新しくなったアトリウムで、この後マスクをして行いました。学生2名はオンライン参加。

オンラインでも対面でも、五感を伴う授業を

今年、田村先生は建築学部2年生の夏期特別授業「材料実験」の授業を担当しました。各種建築材料の材料特性と試験方法、基本的な計測方法を実験・演習を通じて学修する授業です。
7人の先生が数回ずつ担当するオムニバス形式で、田村先生がまとめ役。例年、ほとんどの授業を実験室で行いますが、今年は、全14回中13回がオンライン授業、最後の1回の授業のみ1日集中の対面授業で、任意参加でした。対面授業に出られない学生には、別途オンラインで授業が行われました。

「材料実験」の授業は、13回目までずっとオンライン授業でした。工夫したことや大変だったことはありますか?
 
田村先生:材料を実際に見て、触って、混ぜる際の重さを感じるなどの体験は大変重要で、この授業の醍醐味です。将来建築業界を目指す学生は必ず経験すべきと思います。そこで、オンライン講義でも、各自が身近にある建材で何らかの体験ができるよう心がけました。
一例ですが、コンクリートを練る感覚を直接感じてほしくて、小麦粉と水、後は砂と砂利を混ぜてコンクリートを自宅で疑似体験してもらったこともありました。意外と小麦粉が家にない学生も多くてあせりましたね(笑)。その他、近所のホームセンターで実物を見て触って時に素材の匂いを感じることなども推奨したりもしました。
 
自宅で疑似体験した学生たちが撮影した写真。砂・砂利が混ざると、どんどんコンクリートらしくなります。
「材料実験」の最後の回のみ八王子キャンパスで実施。コロナ禍で不安もあったかと思いますが、工夫されたこと、心がけたことなど教えてください。

田村先生:8月末でしたが、実験室は半屋外で空調がないので、熱中症予防も兼ねて首にかけるネック扇風機を一人一台用意しました。学生には暑い中でしたがマスク着用をお願いし、手指のアルコール消毒や体温チェックも行いました。
当日は、三密防止に留意することはもちろん、とにかく様々な材料に触って感じてもらうことに重点を置きました。それから協働作業を楽しむこと。5-6人でチームを作って、コンクリートとタイルで小作品Box Architectureを作るのですが、その作業を全チームがコンペ形式で行い、遠隔向けに撮影などもしました。各チームでやったぞー!のポーズを取って貰い、授業の全行程と合わせて、当日中にオンラインで参加した学生にも共有しました。ごくわずかですが、当日現場に来られない学生も、事前にチームでGoogle meetによるオンライン打合わせに参加をしてもらっていますから、仲間全員により最終的な模擬コンクリート建物を完成させられたと感じることができたと思います。
完成したBox Architectureを囲んでポーズ!
「材料実験」の授業に参加した2年生のみなさん、どうでしたか?

2年生:オンライン授業が続きましたが、身近なものに例えてくれたり、日常のなかで使われている材料を教えてくれたり、実感ができたのでとっても分かりやすかったです!
 
2年生:チームになってコンクリートで作品を作ったのですが、私たちは、有名ブランドと工学院大学がコラボした想定で、デザインを考えました。その過程も、みんなで話し合って、楽しかったですね。
座談会に参加した学生たちが制作した作品

教える側の責任として、オンラインでも楽しく、理解でき、モチベーション上がる授業を

先生は、建築学部3年生「構造材料施工」も前期に担当されていました。全てオンラインで完結する授業でしたが、理解度・内容ともに学生から高く評価されています。授業アンケートでは、「オンラインだけど学校で授業を受けている感覚になった」という声も。
改めて、オンライン授業での工夫を教えてもらえますか?


田村先生:それはきっと、ぼくが建築マニア、材料マニアだからですね(笑)「構造材料施工」の施工という言葉は、「人が工夫して作り施す」ということ。ぼくはそこにすごく興味があって、学生時代より、いろんな現場の写真を撮りためています。今回、オンライン授業でその写真を掘り起こしましたが、きっと写真から学生たちにも現場で汗を流し、建物を作るという職人さんのプライドのようなものも伝わったのでしょうね。

最近は、授業で使うパワポ音声に心が乗らないとつまらないなぁと感じており、日々感じている建築以外の小話も、今話したい!という気持ちがあればそのままに入れることにしました。たとえば人気絶頂の「鬼滅の刃」。建築って宗教や歴史とも深く関係するのですが、映画の封切りの10月の当日に授業があったので、炭治郎が禰豆子を救いに行く時空のはざまにある仏教の六界(六道とも言う。天界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界)の話とか、主人公等の服装に見られる大正ロマンのデザインの話とか、炭治郎が鬼にも人間の心があった時を思い返し、優しくなれる心の深さの話しとか(笑)。これも、材料マニア教員の責任?として、たった一粒の石灰石にも3億年の悠久の時を経てサンゴだった命が育まれていたことを伝えなければならないという動機から来ている気がしています。
「鬼滅の刃」を題材に宗教と建築を結び付けた授業資料
オンライン授業を受けた学生さんたち、ぜひ感想を聞かせて下さい!

3年生:先生の授業では、オンラインでも途中で考える時間をとってくれます。計算とか、“これについて各自1分間考えてみて”とか。授業中に自分で学びを振り返ったり、考えることに集中したりできるのがよかったです。

田村先生:ぼくが最近考えていること、悩んでいることを一緒に考えてもらうこともよくあるね(笑)

3年生:田村先生はこの分野が本当に好きなんだなと伝わってきます。小話とか抑揚があって楽しく受講できました。

3年生:オンラインでもタイムリーに課題を返却してくれるのもよかったです。戻ってきたレポートにはコメントが書かれているから、今回の取組がどう評価されて、自分の理解具合が成績確定前にわかるのもありがたいですね。

オンラインでも”人となり”を伝える

オンライン授業の準備、やはり大変でしたか?

田村先生:本学のオンライン授業では、基本的にパワーポイントに教員が音声を吹き込んで、それを授業時間に学生たちが再生します。必要なときにだけ、オンライン会議システムを利用してオンタイムで集まります。
パワーポイント資料の作成は、授業1回分作るのに6時間ぐらいかかりました!複数の授業を担当しているので、前期だけで1500枚分ぐらい作りました。今までは授業で鉄や木などの実物を授業内で見せていたのに今年はできないので、素材の写真を少しでも多く入れたくて、一枚を探すのに30分くらい使ったり。資料さえできれば、その後の解説吹き込みは、普通に楽しくしゃべるだけなので、一瞬に終わるのですが、画像を作り込むのは結構疲れますね。

見ているだけで楽しい田村先生の授業資料。豊富な体験談・写真とともに授業が展開されます。
 オンラインでの授業や打ち合わせが多くなり、非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)の大切さに気付くことも多くなりました。先生は、学生との対話について、どのようにお考えですか? 

田村先生:オンライン授業に少し慣れた頃、“対面からオンラインに移行して失われたものって何だろう?”と考え続けました。では、オンタイムでという機会を増やそうとしても、機器等のインフラの都合で“聞こえない”“通じない”がどうしても発生します。そうなると遮断してしまった特定の学生に大きな損失を与えるので、逆に等しく教え・学ぶという目的が失なわれると感じました。そこで大事にしたのが、いつでもどこでも誰にも、この授業を通じて“教えたい”という心を届かせることでした。確実に音声付きパワポで、全員に対して心をのっけて声をとばせれば、誰も就学環境が損なわれることなく確実に情報を受け取れますよね。
そう気付いてから、オンラインと対面とほぼ違いがない形で、「普通に話す」ことを重視し、パワポの上には、図式や文字も書きこみまくりで授業を進めていきました。最初の頃は、授業のパワーポイントを用意し、「これで伝わるのかな?」と一抹の不安が過ぎりましたが、外のサイレンやくしゃみもなんのその、“あー何かあったなあ“、“あーごめんごめん“と普段通りのしゃべりにしたら、かなり負担が減り、学生たちも対面授業と同じ感覚で楽しんでくれているようです。 

オンライン授業でも、先生の”人となり”がしっかり出ているからこそ、先生の建築分野に対する深い愛情や教えることへの熱意が学生たちに伝わり、満足度の高い授業になっているのですね。

学生達だけで、授業と2020年を振り返ってみました

オンラインと対面、どちらにもいいところがある

3年生:今年は、対面とオンラインがあったり、出席ボタンの扱いも先生によって違ったり、ちょっとややこしかったかな。

3年生:
対面であれば、“課題の期限もうすぐだね”とか“提出形式何だっけ?”と友達と話している中で気付くこともあるけれど、今年は無くて、締切数秒前に提出したり、形式違いを直している間に指定日時が過ぎたり、失敗談をよく聞きましたね。

一同:
すごくわかる!

2年生:今年はオンラインだから、ある授業では模型の現物ではなく、写真で模型の課題を提出しました。立体を紹介できる写真がなかなか撮れなくて困っちゃいました。でも、これをきっかけに、CGソフトを使い始めた友人も多いです。苦手意識を克服した子もいて、これはオンラインの恩恵ですね。
 
3年生:私たちが2年生のころはみんな手書きだったよね。今の2年生のほうが、CG得意かも……

2年生:写真提出だから、満員電車に模型を持って乗る恐怖がないのはよかったです(笑)いつも、提出前の模型が壊れちゃわないか、ひやひやしていたので。

一同:それもすごくわかる!!
  
2年生が実際に提出した模型課題の写真。利用する人達の目線に合わせた写真も撮影することで、建物の魅力を伝えられるよう工夫したそう。
 3年生:今年は、履修登録の時点から違った気がします。今までは“友達が受けるから”みたいな軽い気持ちで登録した科目もあったけれど、今年は相談する機会が無くて、全てを自分の興味・関心で決めたからかな。

3年生:遠隔授業だと本当に誰にも会わないですね。共感も少ないから、学びにコミュニティは必要だなって感じました。
 
2年生:私は、課題のために、友達とLINE通話しながら徹夜しました。コロナ禍ならではの思い出ですね。
 
3年生:自分は家族と暮らしているから日頃の会話はあるけれど、留学生や一人暮らしの人は、気分が落ち込んだり、帰国しづらくて大変だよね。

2年生:私は留学生で、今年3月に母国に帰りましたが、来年は帰れないかもしれません。帰っても2週間の隔離があっては、あまり意味が無い気もします。少しさみしいですが、家族や友達とオンラインでは、コミュニケーションをとれています。オンライン講義は何度も見返せるから、聞き落としを確認できた点が、助かりました。一時停止して自分の取り組みが終わってから続きを見ることもできて、自分のペースにあっているかもしれません。
 
3年生:オンラインと対面、それぞれのいいところがあるから、上手く併用していけるといいですね。

この経験を糧に2021年はさらなる飛躍を

授業について考えたり、感想を伝え合ったりする機会は初めてという5人。互いに思わず共感してしまうことがたくさんありました。
会話からは新しい大学生活に馴染むための努力も垣間見えました。
座談会を通して、先生の授業準備のようすや学生たちへの想いを知り、新たな気づきもあったようです。

それぞれが大きな変化の中、精一杯に駆け抜けた2020年。
みなさんにとってはどんな一年でしたか。
2021年、よいお年をお迎えください。

インタビュー参加学生

吉田 さくらさん(建築学科、3年生)
佐藤 瑞希さん(建築学科、3年生)
高橋 竜也さん(建築デザイン学科、3年生)
カピー アレクスィーさん(建築学部、2年生)
テイ ヘイティさん(建築学部、2年生)