いつもワクワクするほうへ

いつもワクワクするほうへ

中野由章校長インタビュー
2021 / 05 / 12
今年の4月から工学院大学附属中学校・高等学校の校長に就任した中野由章先生。
中野先生は、芝浦工業大学大学院修了後に日本IBM大和研究所を経て、教員に転身。三重県の県立高校や大阪府の私立大学、兵庫県神戸市の市立高校など、さまざまな環境で情報科学や学問の面白さを伝えてきました。現在は、情報処理学会の初等中等教育委員会委員長も務めています。

「人生の岐路に立った時、いつもワクワクする道を選んできました」。そう話す中野先生に、附属中学校・高等学校のこれからについて聞きました。
何事も全力で取り組み、全力で楽しむことをモットーにしている中野校長

先生が楽しめば生徒もやってみたくなる

「中高生時代というのは、生徒たちが未知のドアを開いてゆくための時期。 だからこそワクワクするようなドアを、たくさん用意したいんです。」

この春に校長となった中野由章先生に、工学院大学附属中学校・高等学校で取り組みたいことを聞くと、真っ先にそんな答えが返ってきました。

中野校長:
たとえば海外旅行って「自分の知らない世界を覗いてみたい」という好奇心を掻き立ててくれますよね。
実は勉強もまったく同じだと思います。未知の世界にふれることで好奇心が刺激されて、世界がどんどん広がっていく。
学問って本来はすごく楽しくて、贅沢なことなんです。
だから先生方には、ワクワクしながらそれぞれの専門科目の楽しさを伝えていただきたいし、私自身も常にワクワクしていたい。
そんなワクワクが伝わり、「それほど面白いならやってみよう」と考える生徒が出てくると思うのです。

もちろん、すべての生徒がすべての科目を好きになるとは限りません。
ある生徒は数学に興味を持ち、ある生徒は英語が好きになる。それでいいんです。
生徒たちがさまざまな未知のドアに出合い、開けてゆく場所。
工学院大学附属中学校・高等学校を、そんな学校にしたいと思っています。
ICTを使った授業をきっかけに、放課後にものづくりを楽しむ生徒も

日本IBMから教員へ転職

「楽しむこと」や「ワクワクすること」を何よりも大切にする中野先生ですが、実はその感覚は、先生のユニークなキャリアと密接に関わっています。

大学院の修士課程修了後に日本IBM大和研究所に就職し、充実した社会人生活を送るものの中途退職し、故郷の三重県の県立高校の教員に転職。

1997年三重県の県立高校に勤めていた時の写真。当時は職員室にパソコンが数台ある程度で、ディプレイもブラウン管でした。
その後、千里金蘭大学や大阪電気通信大学、神戸市立科学技術高校で教鞭を執ってきた中野先生は、「いつもワクワクする道を選んできた」と話します。

中野校長:
IBMを辞めて教員になるときは、周囲からはさんざん反対されました。
IBMは待遇も良かったし、同僚にも恵まれていて、素晴らしい職場でしたから。
でも、三重県で教員をやっている高校時代の同級生に「先生やってみないか」と誘われた時に、面白そうだと感じたんですよね。
もともと子どもが好きだし、私は性格がしつこいので(笑)、生徒と一緒にゆっくり学んでいくのも好き。
ワクワクするような新しいチャレンジだと思い、教員になることにしました。

結果、三重県で11年間教員を続け、自然豊かな地方から都市部までさまざまな学校で教えたのですが、楽しい思い出ばかりですね。
いつしか、高校で授業をすることが大好きになっていました。
中野先生の好奇心の強さは、私生活にもよく表れています。
「海外に行って旅行するだけなんてもったいない!」と話す校長先生は、渡航先で必ずと言っていいほど現地の学校見学や学会発表をしてきました。

中野校長:
インドを旅行したときには、日本から学校見学のアポをとろうとしても全くつながらず、現地に入ってからホテルでその地域の学校に片っ端から電話をかけました。
50校以上かけたところでやっと、見学させてくれる学校が見つかり、今から行くと言ったら向こうは驚いてましたよ(笑)
ニュージーランドを旅行した際に、クライストチャーチにある学校を見学
その後、ご家庭の事情で大阪に引っ越すことになった中野先生ですが、新たな仕事として選んだのは高校ではなく大学の教員でした。

中野校長:
大学の教員に挑戦しようと思った背景には、ふたつの理由がありました。
ひとつ目が、自分が高校でやってきた授業を客観的・科学的な視点で分析したいと思ったこと。
ふたつ目が、大学の教員として世界中の一流の研究者と親交を持ちたいと考えたことです。
どちらの目標も自分なりに達成できたと思っているのですが、とくに後者は私にとって自慢の経験。
アメリカのMITメディアラボのミッチェル・レズニック氏やニュージーランドのカンタベリー大学のティム・ベル氏など、世界の超一流の研究者たちと交流し、刺激を受けたことは大きな財産になっています。
カンタベリー大学ティム・ベル氏との一枚
大学で新たな知見を得た中野先生は、ふたたび大好きな高校教育の現場へ戻ることに。
神戸市立科学技術高校で教頭を務めた後、工学院大学附属中学校・高等学校の校長に就任しましたが、この選択の根底にも新しいことにチャレンジするワクワク感があるのだといいます。

面白そうという気持ちを出発点にユニークなキャリアを歩み、「生徒にワクワクするようなドアをたくさん用意したい」と話す中野先生は、好奇心によって切り開かれる人生の楽しさや可能性を、誰よりも知る人なのかもしれません。

最新の工学院が、最高の工学院

ときにユーモラスに、ときに刺激的に。人生や教育についてのさまざまな話を教えてくれる中野先生ですが、そのオープンな人柄がよく現れているのが、校長室のドアです。

中野先生が校長に就任して以来、校長室のドアは基本的に開放されていて、誰でも気軽に先生と話せるようになっています。

中野校長:
毎日いろんな生徒が続々とやって来て、なかにはドアが開くのを待ってくれている生徒もいます。
授業のことや学校のこと、部活のこと、家庭のこと。生徒によって話題はさまざまですが、素直で建設的な話をしてくれる生徒が多いですね。
私としても、生徒の視点からみた学校の良いところや悪いところを知る貴重な時間になっています。

ただし、生徒から聞いた要望や意見をもとに、私がトップダウンで物事を決めることはありません。
新入生オリエンテーションの時間に、校長室を自由に探検。
生徒や教員がそれぞれの意思で行動した結果、工学院らしい学びの場ができる。
その想いは、教育方針にも共通しています。

中野校長:
本校が推進する『K-STEAM』とは、グローバル・リベラルアーツと数理情報工学を融合した、工学院らしい先進的教育のこと。
先生方それぞれが自分の個性や経験を生かした『K-STEAM』を考えて、実践していく。

たとえば、イワシの大群が泳ぐと、その魚影が一匹の大きな魚に見えるように、それぞれの教育の総体としての『K-STEAM』が表出するようなイメージですね。
常にアップデートしながら“最新の工学院が、最高の工学院”になっていくのが理想だと考えています。
さらに、中・高・大・院が連携した学びの場を作ることも、中野先生が掲げる大きな目標のひとつです。

中野校長:
工学院大学八王子キャンパスと中高の学びを接続することは、私にとって最も大きな目標のひとつです。
これまでも大学の設備を中高生が利用することはありましたが、ハードだけでなく、人的・総合的な連携ができればと思っています。
たとえば、工学院大学工学部機械システム工学科の濱根洋人教授が監督を務めるソーラーチームに、中高自動車部の技術指導をしていただいています。これは理想の形のひとつですね。
生徒たちは大学のソーラービークル研究所に毎週のように通い、中高にはない最新の設備を活用しながら、作業に没頭していますよ。
ソーラーチームから中高自動車部に寄贈された2号機。この車両で中高自動車部がソーラーカーレース鈴鹿2021に出場予定。
ワクワクするような好奇心を原動力に、教育と向き合ってきた中野先生は、これからどんな学びの場を実現していくのでしょう。
工学院大学附属中学校・高等学校のこれからが、ますます楽しみです。

中野先生は、中高での日常や学校の取り組みをブログで発信しています。
実際に行く機会がなかなかない方も、オンラインで校長室をのぞいてみてくださいね。