まっすぐな想いと好奇心が支えた夢への道のり

まっすぐな想いと好奇心が支えた夢への道のり

~株式会社 SMALL WORLDS 坂井聡美さんインタビュー~
2020 / 02 / 20
工学院大学は、建学の精神「社会・産業界と最先端の学問を幅広くつなぐ『工』の精神」を掲げ、多くのプロフェッショナルを世に送り出してきました。様々な分野で多様な活躍をしている先輩たちは、どのような学生生活を送り、卒業後のキャリアを切り拓いていったのでしょうか。

今回登場いただく先輩は、坂井聡美さんです。2014年に工学院大学大学院(機械工学専攻)を修了し、株式会社東芝を経て、現在、株式会社SMALL WORLDSにてリードエンジニア代表としてチームを指揮しながら、SMALL WORLDS TOKYO(以下、スモールワールズTOKYO)に関わっています。
左から坂井聡美さん、工学院大学附属高校一年生の四條鈴華さんと星野圭祐さん。坂井さんは、本学工学部機械システム工学科から大学院機械工学専攻に進み、2014年修了。四條さんは自動車部の部長兼ドライバー。星野さんは自動車部に所属しつつ、得意の3Dプリンタを使った電子工作で、FAB 3D CONTEST 2018にて特別賞を受賞。

「スモールワールズTOKYO」でのお仕事と、工学分野に興味をもったきっかけ

先ほど、坂井さんの職場を見学させていただきました。いくつもの異なるシーンで、ミニチュア模型がどれも精巧に作られ、しかも動くことに興奮しました。坂井さんは、具体的にはどのようなお仕事をされているのですか?

坂井さん:2020年4月に東京有明エリアにオープンする世界最大級の屋内型ミニチュアテーマパーク「スモールワールズTOKYO」において、「関西国際空港エリア」を担当するリードエンジニアとして20人程のチームの中で働いています。

私はリードエンジニアとして、様々なミニチュアを動かす仕組みの設計や実装を行なっています。「関西国際空港エリア」は、ミニチュアを使って実際の関西国際空港の様子を再現しています。飛行機の機体・着陸場・管制塔から、空港内を歩く人の様子まで…リアルな空港の様子を再現するためには、たくさんのミニチュアを設置して、それを動かす必要があります。

実際に関西国際空港にも何度か足を運び、空港内のありとあらゆる場所を歩いて見回り、飛行機の離陸や着陸時の動きを何度も何度も見て、「どんなミニチュアを置いて、どのように動かせば実際の空港の様子を再現できるか」を入念に考えました。

その他、関西国際空港に関する映像資料なども日々たくさん見ています。そこから得た情報を基にして、飛行機の離着陸時の動きに代表されるような、様々なミニチュアの動きを設計・実装しています。
坂井さんが担当した「関西国際空港エリア」を案内していただきました。
機械や工学分野に興味をもったのは、いつごろからですか?

坂井さん:幼稚園の頃からですね。父がエンジニアだったこともあり、壊れたビデオデッキなど様々な機械を、ドライバーでネジを外して分解するという遊びをしていたんです。

色々な機械を分解する度に「この機械の中身はこうなっていて、こうやって動くんだ」いう発見が毎回あり、遊びとして純粋に楽しんでいました。

工学院大学を選んだ理由

高校生の時、進路を考える時期に、どんなことを考えていましたか?

坂井さん:「機械工学とか機械制御を学びたい」と決めていたので、進路を考える上で、迷いはなかったですね。当時はHONDA(本田技研工業株式会社)が「ASIMO」を開発した時代でした。

ASIMOなどを見て「ロボットって格好良いな」ということを考えたり、SF映画などを見て「アニマトロニクス」という技術を知ることで、「私もアニマトロニクスのようなものを作りたい!」という思いを膨らませていましたね。

※アニマトロニクスとは 生き物や架空生物の形や動きを精巧に再現する制作技術のこと。

なぜ工学院大学を選んだのでしょうか?

坂井さん:就職率の高さや、仕事につながる生きた技術を学ぶ環境が充実していることが、工学院大学への進学を決めた理由でした。

バンド活動や工学院大学ソーラーチームへの参加、積極的に活動していた学生時代

学生時代にはソーラーチームへ参加していたと聞いています。工学院大学に進学されてからの様子を教えてください。

坂井さん:学業に励んだ一方で、実は学生時代はバンド活動にはまっていました(笑)。 ソーラーチームへの参加は、工学院大学の大学院に進学してからだったんです。大学院で入った研究室の先生をきっかけにソーラーチームを知って、「あ、面白そう」と思ってプロジェクトに参加していったという流れです。

学業との両立は大変だったのではないでしょうか?

坂井さん:そこはあまり深く考えていなかったですね(笑)。私はわりと楽観的な性格をしているところもあるので、面白いと思ったら、飛び込んでみて、やってしまえばなんとかなるだろうと考えていました。実際、ソーラーチームでは、オーストラリアでの大会(World Solar Challenge)にも参加するなど、充実した経験を得ることができました。

工学院大学ソーラーチームに参加して得た、大きな経験

工学院大学はソーラーチームに大学全体で取り組んでいる印象があります。坂井さんにとっては、どのような活動でしたか?

坂井さん:自分から率先して動く力が身についたと思っています。世界大会は、オーストラリアの北から南まで約3000kmをソーラーカーで走るというものだったのですが、大会期間中は目まぐるしい気候や環境の変化がありました。一日目は夏のような気候だったのに、次の日は冬のような気候に様変わりするのも当たり前。 状況の変化に合わせて都度、車の整備を行っていました。

「次に何をすべきか」「どんな判断をしなければならないのか」を自発的に提案し合いながら、常にスピーディーかつ的確な判断が求められる毎日が、今に繋がる大きな経験となりました。
坂井さん:チームメンバー同士の仲はとっても良かったですね! 今でもSNSなどで繋がっていて、連絡を取り合っています。自発的に動くことの大切さを学び得る中で、チームなので当然周りのメンバーとの連携をしっかりとることも重要でした。レースでの濃い経験があったからこそ、未だに関係が途絶えないのかもしれませんね。

ソーラーチームでの経験が、今のお仕事に生かされている部分も多いのでしょうか?

坂井さん:「スモールワールズTOKYO」での仕事においても、様々なミニチュアを動かす仕組みの設計や実装を行う中で、うまくいかないことがあったり、トラブルが起きたりすることも少なくありません。

そんな中で、トラブルが起きてもパニックにならずに、「何をすべきか」を冷静に判断して手を動かすことが当たり前にできるようになったのは、ソーラーチームでの経験が大きく影響していると思っています。

東芝を経て、SMALL WORLDSへの転職

大学院から東芝へ就職されたと伺いました。その後転職されたのは、どういったきっかけや想いがあったのでしょうか?

坂井さん:東芝では、生産設備の開発を行っていました。研究開発に近い分野でもあり、楽しく仕事をしていました。仕事に励む傍ら、ハッカソン同好会というものに参加していました。そして、その同好会で参加したイベントで、SMALL WORLDS社長の近藤に声をかけて頂いたことが、同社へ転職することになったきっかけだったんです。

どんな気持ちで、転職を決意したのですか?

坂井さん:迷いはなかったですね!小さい頃から機械工学などに興味をもった中で、「アニマトロニクス」のように、エンターテインメントの世界でたくさんの人に楽しんでもらうものを作ることに憧れがあったんです。近藤の話を聞いた瞬間、間違いなくそういった想いを実現できる場所であると確信しました。

それに、「好きなものは好き!」「やりたいことをやる!」「面白そうと思ったら飛びこんでみる」という考えがあったからこそ、迷いなく転職を決めることができたのだと思います。
坂井さんの案内で制作途中のジオラマを見せていただきました。
ミニチュアを製作している作業机
転職していきなりリードエンジニアとして働き始めたそうですね。たくさんのクリエイター・エンジニアさんたちを率いる立場として苦労したことはありますか?

坂井さん:私の担当する「関西国際空港エリア」にも、凄腕のクリエイター・エンジニアさんがたくさん在籍して働いています。皆、腕がある方ばかりなのですが、時々仕事や困りごとを自分で抱え込んでしまう場面を見かけます。「自分ならできる!」って思うんでしょうね。

そのようになったとき、あるいは、そうならないようにするために、気をつけていることはありますか?

坂井さん:やっぱりコミュニケーションをしっかりとるということだと思います。アニメが好きな人も多いので、アニメの話をしたり、私が作ったミニチュア模型を見せびらかしたりなどして「楽しい時間を共有するところからコミュニケーションを始めよう」ということを意識しています。

そして、そういったコミュニケーションを経て、チームメンバーと仕事に関する情報を交換したり、重要な内容を共有してもらったりするようにしています。

チームでは、楽しい環境づくりと自分をさらけだすことが大切

四條さん:私は自動車部で部長をしています。部をまとめるのに苦労することも少なくないのですが、チームをまとめる上で気をつけた方が良いポイントはありますか?

坂井さん:先ほどの話にも通じるのですが、「楽しい」と感じてもらえる環境づくりをすることが大事だと思います。私が現在のチームでコミュニケーションをとる際に大切にしている部分です。
そして、その環境を作るために、自分をさらけ出すことを意識していますね。私は自然と身についていた感じではあるのですが。

四條さん:自分をさらけ出すというのは、どんな感じなんでしょうか?

坂井さん:そうですね、家族と接するような感覚で、言葉は選びながらも「好きなものは好き」「苦手なものは苦手」と自分の意思・意見をはっきり伝えることですね。

特に、人って「好きなこと」をどんどん共有し合うと、共通点が見つかり心を開きやすくなると思うんです。そうすると、すぐに仲良くなれるので、試してみると良いですよ。
星野さん:僕も自動車部に所属していますが、大人数で一つのものを作る時に、よく意見の対立があります。坂井さんはチームでそういったことが起きた時に、どうまとめていますか?

坂井さん:まず自分が一度受け入れた上で、お互いの意見の良いところをうまく調和させることを意識しています。
例えば自分とチームの誰かとの間で同じような状況が起きたとしたら、 いったん「相手はなぜそういう意見を持っているんだろう」と冷静になって考えます。「相手はこう考えているから、この意見を持ってるんだ」と仮説検証を立てて、 実際に相手にぶつけてみて、合意が取れたら自分の意見も伝えていきます。
どちらの立場に立ったとしても自分の意見がゼロになるのは精神的にも辛いので・・・ お互いを尊重した上で、それぞれの意見の良いところをすり合わせていく感じですね。

「やりたい!」と思ったことは、迷わずチャレンジ!

四條さん:お話を伺っているとチャレンジ精神がすごいなと感じます。うまくいかないこともあると思うのですが、モチベーションの保ち方のコツはありますか?

坂井さん:やりたくないと思ったら「今は」やらないと決めて、やりたいと思うことに取り組むことですね。
ストレスをためたり考え込んだりすると、的を射ない思考に入りがちです。モチベーションが上がらなかったら別のことに切り替えるといったメリハリも大事だと思います。

星野さん:自分の好きなことと得意なことって違うことが多いと思うのですが、どちらを優先すべきなんでしょうか? 僕はそれぞれ別にあって、困る事があるのですが。

坂井さん:私は好きなことと得意なことが同じなのですが、そうなったのも、「好きなものは好き!」「やりたいことをやる」という気持ちを大事にしていたのが大きいと思います。

星野さん:今のお話を聞いて、「自分の好きなことを仕事にする 」ってとっても良いなと感じたので、そうやっていきたいと思いました。

坂井さんから、2人や工学院の後輩・在学生へのアドバイスをお願いします。

坂井さん: やりたいと思ったことは迷わずに、ひたすらやるべきということですね! たくさんやりたいことがあるなら全部やれば良いと思います。
社会人になればなるほど自分で管理しきれない時間が増えてくるので、自分で自由に使える時間が多いうちに、いろんなことをして様々な経験を積んでいくのが一番良いのではないでしょうか。

終わりに

チャレンジ精神が豊富で行動的な坂井さん。 歩んできた道のりを支えたのは「やりたいことをやろう!」というまっすぐな想いと好奇心でした。

チームをまとめる上で「人を尊重すること」を大切にしながらも、自分の想いを率直に伝える姿勢に、星野さんと四條さんが学び得たものは大きかったようです。