生徒の学びを促進する 学習環境作りとは?

生徒の学びを促進する 学習環境作りとは?

「アクティブラーニング」を学校全体で進める。
2017 / 11 / 15
日本テレビ系列で毎週土曜日22時から放送中の「先に生まれただけの僕」は、学校教育のあり方を問う学園ドラマ。嵐の櫻井翔さんが元商社マンの校長先生を演じる本作品では、今注目を集める教育手法「アクティブラーニング」が描かれています。
 
工学院大学附属中学校・高等学校では、アクティブラーニングを軸とした教育プログラム「21世紀型教育」を実践。世界から必要とされる若者になるための教育に取り組んできました。「先に生まれただけの僕」では、本校で英語・数学・日本史・地理歴史を担当する4名の先生が、アクティブラーニングを行う場面の監修を手がけています。

前回の記事では、英語の監修を手がけた高橋一也先生からアクティブラーニングという概念や授業内容、子供たちの変化についてお聞きしました。今回は「アクティブラーニングは学校全体で実践しないと意味がない」と語る高橋先生に、生徒や先生同士の対話を生むための環境作りについて語っていただきました。

アクティブラーニングに欠かせない先生同士のコミュニケーション

高橋先生は、2015年に開設した中学校「ハイブリッドインターナショナルクラス」の担任、2016年より中学教頭を務めています。
高橋先生はアクティブラーニングを実践するにあたり、「学校全体で主体的に学び合う空気を醸成する」を大切にしているそうです。なかでも、先生同士の活発なコミュニケーションが欠かせないそうです。

「先生同士の対話がなければ、個々の生徒の強みや関心を把握できません。例えば、職員室で『英語が嫌いな〇〇君は社会の授業でこの分野に興味を持っていた』と共有する。そうすると、英語の先生は彼の関心に近い英語の本を紹介してあげられるかもしれませんよね。」
高橋先生は先生同士で上手くいった事を共有することで、教育の質をより高められると語ります。
「個々の先生が一から授業を準備するのではなく、互いにベストプラクティスを活用し合えば、業務の効率化にも繋がります。そこから新たな取り組みを試行錯誤する余裕も生まれるでしょう。」

校内にコミュニケーションを生む環境をデザインする

「先生同士が楽しそうに対話していなければ、生徒はコミュニケーションを取ろうとしない」と語る高橋先生。工学院大学附属中学校・高等学校では、対話を生む場作りのために、先生の働く環境にも注力しています。

「書類の積まれた煩雑な事務机では、自然なディスカッションも生まれづらい。机は常に先生同士の顔が見えるよう綺麗な状態を保ち、コーヒーなども自由に飲め、室内で音楽をかけることもあります。創造性を重視する企業さながらの快適な職場を心がけています。
 
先生同士はビジネス用のチャットツールで気軽に情報交換をしていますし、生徒とも学校用のSNSを使って授業の質問などを積極的に交わし合っていますね。」
 
コミュニケーションを生むための施策は、職員室の環境やチャットツールにとどまりません。校内には先生だけでなく生徒間のコミュニケーションを生み出す工夫も施されています。
例えば、廊下に椅子と机が置かれ、その上にレゴが置いてあるのは、生徒たちがそこに集まり、手を動かしながら対話をする機会を生み出すため。そうすることで、自然と良いアイデアが生まれます。
 
高橋先生は、コミュニケーションに関わる科学的な理論を積極的に応用し、アクティブラーニングに適した環境を作ってきました。
 
「成功したアクティブラーニングの事例はいくつもありますが、その背景となった理論を把握した上で、各学校が自分たちの教育に合わせた環境を作っていく必要があります。無理に壁を全面ホワイトボードにしたり、特別な形の机や椅子を用意しなくてもいいんです。」

ICTは学びのきっかけを提供するツール、生徒たちの知的好奇心の広がり

高橋先生は能動的に学ぶ環境を作るために、ノートパソコンやタブレット型端末など情報通信技術を用いたを教育(ICT教育)にも積極的に取り組んでいます。
 
「この学校は元々工業系の学校なので、理系教育やモノ作り思想が根付いています。本校のアクティブラーニング教育で重要視している“共有”を行うための表現方法が広がるという点で、ICT教育がもたらした利点は相当なものです。」
たとえば、Adobeが開発するソフトなどを活用することで、子どもであってもビジュアルやアニメーションを作成することができます。ICTを活用することで、子どもたちは自分の伝えたいことを表現しやすくなっているのです。
 
ICT教育の一環として、生徒たちが高尾山を登り、プロジェクションマッピングを行う授業も実施しています。テクノロジーを駆使してプロジェクトを行う経験を通して、生徒がアートやテクノロジーを見つめる眼差しも変わっていくのかもしれません。
 
「例えば、校内のポスターにもタグが埋め込まれていて、iPadをかざすとAR上で情報が表示される仕掛けもあります。こうした最新のテクノロジーがが身近にあると『どのような仕組みで出来ているのか』と考えるきっかけにもなります。生徒たちの知的好奇心を刺激する仕掛けは今後も作っていきたいですね。」
「アクティブラーニングを行うには、授業だけではなく、学校内の環境を変えることも重要」と話す高橋先生。アクティブラーニングを実践するにあたり、先生同士のコミュニケーションや校舎内の対話を生む仕掛け、ICTの活用など、学びが生まれる空間を多角的に考え続けています。

文/向晴香