新2号館に込められた想い ~飯島直樹氏インタビュー~

新2号館に込められた想い ~飯島直樹氏インタビュー~

八王子キャンパス2号館
2017 / 09 / 29

ドキドキが学生の感性に効く

広報課:何度も新2号館に来ていますが、本当に素敵な空間ですね。前回の広報誌「窓」では、2階の「たわむ天井」について記事にまとめたのですが、今回は、インテリアデザイナーとして新2号館に携わった飯島先生に、デザインの意図をお伺いします。
「天井」を「波打たせる」ことは、どのようなコンセプトから生まれましたか?

「プロカメラマンをお迎えしての写真撮影の実践授業では、こんな白衣作って拡声器持ってやります。ちょっと変わってて面白いでしょ?(笑)」(飯島氏)
 
飯島:
僕は、まず新宿のB-ICHIをデザインして、次に新2号館を担当しました。B-ICHIを作ったときもですが、大学からオーダーを受けるに当たって、ラーニングコモンズ(注1)を調べました。はやりなのですね、色々な大学で作っている。施工業者が先生方に使い方をレクチャーしていると聞き、従来の学校施設とは用途が異なる場と感じました。調べていくにつれ文部科学省も推進している「アクティブラーニング」を促す場であることがわかり、「国を挙げて大学を変えようとしている。これをデザインの点で応援していこう」という気持ちでとりかかりました。新2号館は、新宿キャンパスB-ICHIの進化版です。


注1:ラーニングコモンズ
ラーニング・コモンズ(Learning commons)とは、学生の学習支援を意図して大学図書館に設けられた場所や施設。 具体的には、情報通信環境が整い、自習やグループ学習用の家具や設備が用意され、相談係がいる開放的な学習空間を言う。 飲食コーナーが敷設されていたり、図書館外に設置されたりしている例もある。
ラーニングコモンズ「B-ICHI」(新宿キャンパス地下1階)  撮影:工学院大学Ⅰ部新聞会
飯島:波立たせるのは、最近の建築のはやりです。リアルな直線が曲線に変わると、何だかドキドキしますよね?この感覚が学生の感性に効くだろうと期待しました。空気がゆらぐ感じを創ることも狙いです。小さな動きが集まると、学生さんも「やってみようかな」と考えやすくなりますよね。静まりかえったスペースでは難しい効果です。

広報課:
そうですね!実際見に行ったときも、なにかドキドキを感じました。

飯島:
天井をステンレスにすることは別の建物で経験していますが、これほど広い場所に、しかもゆがませて使うことは施工会社も僕も初めてだったので、ステンレスの厚さ、鋲の間隔など、試しながら決めていきました。なぜ天井か? 場所が無かったからです(笑)。このフロアはほとんど壁が無い。だから、ここでデザインできるのは、家具と床と天井だけでしょ?道路から2階以上を見ると、学生本人は見えないのに、天井の映りから賑やかな様子がわかる。テラスの天井も同じ素材を使うことで、屋内と屋外が繋がる感覚を持てる。そんな効果と、照明、予算など色々考えた上での選択です。

既存のモノにとらわれない

新2号館建設前にこの場所に植わっていた楠が、机に生まれ変わりました。このような机が新2号館には様々な形で置かれていますが、あなたはいくつ見つけられますか?
広報課:予算などいろいろな要素が絡み合う中で最高の空間を目指したということですね。

飯島:
この施工案を躊躇した時期がありました。使用例はエンターテイメント施設が多く、ここほど広くない。しかも、今回の設置場所は大学です。ところが、理事会で進捗報告したところ、OKが出ました。施工会社からは「音が乱反射する」などと懸念されたのですが、それも理事会メンバーは「ちょっとガヤガヤ感があってもいいじゃない」と考え、天井をたわませる案に賛成してくれました。既存の枠にとらわれず新しいモノに挑戦する理事会の姿勢を感じましたね。

広報課:
たしかに、他大学で見たことのない表現ですし、躊躇してしまいそうですね。

飯島:
経年による曇りも問題ないと考えています。10年後ぐらいに拭けば大丈夫です。ある女子大学さんにステンレスの外壁があるので、見学に行きました。雨風にさらされて8年目ほどの状態で、さすがに少し曇ってきていたけれど、見苦しい感じは無い。新2号館での使い方は室内で、しかも、天井。ですから、見栄えもメンテナンスも、問題ないと考えています。
「学生の感性に効く」と表現しましたが、天井だけで無く、椅子も机も、「触感」を重視して選定しました。机の幅、椅子の高さにもこだわっています。相席しやすい机、話しやすい高さの椅子などです。空調も、照明も、全てが考えられた、最新のモノです。

ギャラリーやワークショップ会場に早変わり

広報課:オープンして3ヶ月(2017年7月現在)。まだ使いこなしていない機能もあるのでは?

飯島:
これから、色々な使われ方がされると聞いています。
家具は全て可動式なので、目的によって、いつでも机の配置を変えられる。「コの字」で講義して、グループワークでは机をグループ毎に離すなど、授業中でも目的に合わせて最適な形にできます。この特長を活かして、日本語を話さない英語ワークショップを考えている先生もいますよ。
そして、ステンレスの柱。特に新2号館2階中央付近の柱は、表面は外れて、並べるとパネルや間仕切りになります。ステンレスですから、マグネットがくっつく。作品を掲示して、ギャラリーとしても使える設計です。

フロアごとに異なる色遣い

様々な色の椅子。使われる度に並びが変わり、見る度にワクワクします。
広報課:4階に比べると、2階で使われている色は限られていていますね。

飯島:
1階から3階は僕が、4階は塩見一郎教授(建築学部建築デザイン学科)が担当しました。
建物としての共通コンセプトはありましたが、全フロアが同じである必要は無いので、フロアによって色遣いが異なるのは当然のことです。
1~3階、とくに2階は、学生が入って初めてこの空間は完成します。そのため、あえて色は抑えました。HUBと名付けられているように、情報発信基地、フリーな場所、何が起きてもokなイメージで作りました。
図書館のある4階は、ワンダーランドのような、楽しい場所。本を読むのが楽しい、色々かき混ぜる様なイメージです。
B-ICHIにも共通するのですが、ホワイトボードや黒板も意識しています。人間、黒板があれば書きたくなるものです。何か書くことで、発信・創造・発展できるといいなぁ、という思いで設置しました。
様々なアイディアが引き出されるのは、この場所ならではの効果です。

異文化・異業種から吸収して、経験して、身につく

広報課:新2号館は細かなところまで考えられていますが、建築学部での授業でも、このような思考を教えているのでしょうか?

飯島:
はい。授業では、家具の高さや照明のことも説明します。ただ、実感を伴って使いこなせるようになるのは、仕事して、しかも、大失敗をしないと(笑)。失敗すれば、次からは気をつけますから。

広報課:
工学院大学の教育で良いところは、どのようなところでしょうか?

飯島:
経験上、建築学部に限った話になってしまいますが、教員に良い意味で変わり者が多くて、学生をどんどん学外に引っ張り出すこと。建築学部開設の際、「建築は理工系だけでは無く、多角的に吸収しよう」という思想がありました。僕は建築では無くて、美術の出身です。そんな僕が教授として授業をし、インテリアデザイナーとして新2号館、B-ICHIを担当しました。先生方は学生のコンペ出品を応援したり、学外グループとのワークショップに研究室学生を連れて行ったりしています。職業を決めるのに、学生の視点だけでは限られるけれど、大学の外に出て、あぁでもないこうでもないと話すことで、色んな出会いや経験をする。異業種との化学反応の場が多いって、ことかな。
工学部建築学科の卒業生は、「工事の専門家」だったけれど、建築学部になってからは、建築だけで無く、その先を見て行動する人が増えているように感じています。ある優秀な学生は、ベンチャーの不動産屋を就職先に選びました。あと5年もすれば、面白い卒業生が活躍し始めると思いますよ。とても楽しみです。
インタビューは7月下旬に行いました。暑い中、ありがとうございました。