「パイロット」という 夢を掴むために 走り続けた学生生活

「パイロット」という 夢を掴むために 走り続けた学生生活

~日本航空株式会社 阿部翔吾さんインタビュー~
2018 / 05 / 18
工学院大学は、最先端の学問と社会や産業界のニーズをつなぐ「工」の精神を掲げ、多くのプロフェッショナルを世に送り出してきました。
様々な分野で多様な活躍をしている先輩たちは、どのような学生生活を送り、卒業後のキャリアを切り拓いていかれたのでしょうか。
今回登場いただく先輩は、工学部第1部国際基礎工学科(現:先進工学部機械理工学科)を卒業し、現在は日本航空株式会社で国際線のパイロットとして活躍する阿部翔吾(あべ しょうご)さん。
工学院大学附属中高生と一緒に、先輩のお話を伺いに行きました。
幼い頃からの夢を叶えた阿部さんに、在学中の思い出から、訓練中の苦労話、パイロットのやりがいなど、たっぷり語っていただきました。
インタビューに同行したのは工学院大学附属中学校3年生の青木莉瑚さんと高校1年生の岸恵多さんです。
青木さん(写真左)は将来の夢は考え中ですが、宇宙開発に関心があるそう。岸さん(写真右)はパイロットになりたいという夢を抱いており、阿部さんの仕事に興味津々。

工学院大学を選んだ理由

幼い頃からパイロットになるのが夢だったとお伺いしました。どのようなきっかけで志すようになられたのでしょうか?

阿部さん:
物心ついた頃から、とにかく飛行機に夢中でした。祖母の家に行ったり、旅行に出かけたり、幼い頃から飛行機に乗る機会が多くあり、その度に好きになっていきました。
中学、高校の頃から、「将来は、自分は飛行機に関わる仕事をしていきたい」と考えていました。

その頃は工学院大学に航空系の学科はなかったと思います。なぜ工学院大学への進学を選ばれたのでしょうか?

阿部さん:
航空大学校(パイロットを養成する公的な教育機関)は、大学の2年次を修了していれば受験できます。ただパイロットになるなら、技術や工学の知識に加えて、英会話も身につける必要があると思っていました。そこで英会話の授業が充実している理工科系の学校を探し、工学院大学の国際基礎工学科に進みました。工科系では珍しく、グローバルエンジニアを育てるために、週3回の英会話の授業がありました。
阿部 翔吾(あべ しょうご)さん。日本航空株式会社 運航本部787運航乗員部副操縦士(2018年5月現在)。2005年3月工学部第1部国際基礎工学科(現:先進工学部機械理工学科)卒業。

勉強にアルバイト、留学、夢に向けて駆け抜けた学生生活

大学ではどのように過ごされていたのでしょうか?パイロットになるためには猛勉強するというイメージがあるのですが...。

阿部さん:
猛勉強といえるかはわかりませんが、航空大学校の受験に向けての勉強は常にしていました。学科での授業も忙しかったですが、ユニークな先生が多くて面白かった記憶があります。

進学前は英会話を勉強しようと考えられていたそうですが、英会話の授業はいかがでしたか?

阿部さん:
英会話の授業も楽しかったです。グローバルエンジニアを育てるために必要な英会話の授業で、実践的な内容だったので、パイロットになってから大変役立っています。大学1年生のときにはニューヨークへ短期語学留学に参加し、生まれて初めての海外を満喫しました。

勉強や授業以外の時間はどのように過ごされていましたか?アルバイトや課外活動などされていたのでしょうか?

阿部さん:
アルバイトは遊園地でジェットコースターの案内をしていました。同じ学科の友人と遊びに出かけたり、必修の体育でサッカーやホッケーを全力で楽しんだりしました。ごく普通の学生生活を送っていたと思います。
特定の課外活動には所属していなかったのですが、同じ学科の友人から『飛行機が好きなら手伝って』と誘われ、鳥人間プロジェクトの立ち上げも手伝いました。今でも活動が続いているようで、とても嬉しいですね。
授業以外も充実していたのですね!卒業後の進路に向けては、いつ頃からどのように動き始められたのでしょうか?

阿部さん:大学2年生の頃は、航空大学校の受験に向けて準備を進めていましたが、仮に受かったとしても確実に航空会社に入社できるかどうかわからない状況でした。そのようなこともあり、航空会社に入社後に訓練を受ける道を選ぼうと決めました。3年生から4年生にかけては、日本航空株式会社の自社養成パイロットに向けて就職活動をし、念願かなって、無事合格できました。

合格したときのご様子はいかがでしたか?

阿部さん:嬉しかったですね。周囲の人たちもすごく祝ってくれました。今振り返ると少し浮かれていました。入社が決まっただけで、まだパイロットになれてないですから(笑)
ちょうど大学3、4年生のときにお世話になったゼミの教授が、わたしと同じくらい飛行機好きで、よく飛行機の話で盛り上がっていたことが印象に残っています。就職活動中もとても応援して下さったので、良い報告を持って帰れたときは、とても誇らしく、嬉しかったのを覚えています。

安全な空の旅を実現するための厳しい訓練

憧れのパイロットのスタートラインに立った後は、どのように訓練が進むのでしょうか?

阿部さん:まず1年目は空港などで接客業務を経験して、2年目からアメリカで小型飛行機でのトレーニングを行います。2年間の訓練中は毎日教官パイロットから指導を受けます。指摘を受けたところを改善するために試行錯誤をひたすら繰り返します。一定の成績を満たさなければ、訓練を続けることができなくなるので、プレッシャーは大きかったですね。

体力的にも精神的にもなかなか大変そうです。どのようにモチベーションを保たれていたのですか?

阿部さん:周囲の頑張っている人をみて、己を奮い立たせていました。一番支えとなったのは、パイロットになるという同じ志をもつ同期の努力する姿です。
あとは『情熱大陸』や『プロフェッショナル 仕事の流儀 』も毎週欠かさず観て、目標に向かって努力する人たちの言葉に励まされていました。番組のおかげでアメリカでの訓練を乗り越えられたといっても過言ではないかもしれません(笑)

アメリカでの訓練から帰国された後は、いよいよ国内で実際に旅客機の操縦を経験されたのでしょうか?

阿部さん:そうですね。訓練の終盤、初めてお客さまを後ろにお乗せしたフライトで、新千歳空港に着陸をしたときの光景は今でも鮮明に覚えています。
旅客機の訓練を経て試験に合格した後、副操縦士として乗務します。機体のサイズはもちろんですが、約500名の命を背負っているという点がまったく異なります。お客さまを安全に目的地までお連れする責任があると思うと、それまでの訓練で感じたものとは異質のプレッシャーを感じました。
期間限定の飛行機が駐機場から滑走路へ移動を始めた時、すかさず「撮っておいた方がいいですよ」と阿部さんが教えてくれました。

人と人の繋がりを大切に、日々の業務に向き合う

大変な訓練を経て、今では日々国内外を飛び回られています。パイロットとして働くなかで、どのようなときに一番やりがいを感じられますか?

阿部さん:お客さまに喜んでもらえる瞬間ですね。そのためにもお客さまと触れ合う機会を大切にしています。パイロットには子どもたちに配るためのシールが用意されているので、積極的にシールを配ってコミュニケーションをとるようにしています。子どもたちはみんなシールが大好きですからね(笑)
阿部さん自らが子ども達に配っているシール
たしかに、飛行機に乗ってもパイロットの方と話す機会って少ないですよね。

阿部さん:そうなんです。コミュニケーションの機会をつくるために、クリスマスの日のフライトでお客さま向けにイベントを企画したこともあります。組織の風通しがすごく良いので、積極的に自分たちのやりたいことに挑戦させていただいています。

「お客さまと触れ合う瞬間が嬉しい」と語る様子をみて、上司の宇治 倫明さんが、阿部さんの人柄について教えてくださいました。

宇治さん:阿部さんは会社の利益や自分の評価だけを気にすることなく、人と人の絆や繋がりを大切にして、コミュニケーションが取れる人です。
日頃、お客さまとのコミュニケーションについては本当に熱心です。ある年のクリスマスイベントの日、阿部さんはパイロットとしての仕事もあった中、お客さまに喜んでいただけるように、周囲の仲間を巻き込み、素晴らしいイベントを実現してくれました。
パイロットとしても優秀ですが、パイロットだけにしておくのはもったいないと思うときもあります(笑)
右から2番目の方が機長の宇治さん。阿部さんのためなら、とお忙しい中、ご同席くださいました。
「とにかく真面目で一生懸命ですね」と宇治さんに言われ、照れた表情を見せる阿部さん。今も昔も、目標に向かって懸命になれる理由はどこにあるのでしょうか。工学院大学の学生に伝えたいアドバイスを伺ってみました。

阿部さん:「これがやりたい」という方向が定まっていれば、あとはそれに対して自分で道をつくり、全力で走るだけです。私自身は、それを繰り返した結果、今があると思っています。もちろん、方向転換する瞬間もあっていいと思います。目の前のことに全力を尽くす姿勢さえ失わなければ、諦めざるを得ないとしても、その先の一歩に繋がっていくはずですから。
機長の帽子
機長である宇治さんの帽子。厳しい訓練を乗り越えて副操縦士から機長に昇格すると、金の月桂樹が刺繍された帽子を被ります。

夢を掴んだ先輩に、在校生から聞いてみたいこと

インタビュー当日は雲ひとつない快晴。インタビュー後は飛行機の見える場所に移動して、高校1年生の岸恵多さんと中学3年生の青木莉瑚さんから、阿部さんに質問を投げかけました。
岸さん:パイロットは人の命を背負っているお仕事です。阿部さんは、プレッシャーを感じますか?

阿部さん:常にプレッシャーはあるし、離着陸のときは毎回緊張しているんだなって思います。意識していないのに汗をかいていたりすることもあります。一度として同じフライトはありません。今日みたいに天気の良い日もあれば、悪い日もあります。だからこそ、あらゆる事態を想定した訓練をすることが重要なんです。

岸さん:だから厳しい訓練が大切なんですね。勉強以外にもパイロットになるために必要なことはありますか?
阿部さん:やっぱりチームプレイが大切だと思います。二人は部活には入ってますか?

岸さん:バドミントン部に入ってます。

青木さん:私はバスケットボール部です。

阿部さん:二人ともチームで練習したり、試合に出たりした経験があると思いますが、パイロットの仕事も同じです。一人ではなく、クルー全員でより良いフライトのために力を合わせないといけないんですよ。
青木さん:さきほどのインタビューでも、阿部さんは人との繋がりを大切にされているのだと感じました。これまで出会った人のなかで、一番感謝している人はいますか?

阿部さん:高校受験をするときに通っていた塾の先生です。とても厳しい方でしたが、『やればできる』ということを教えてくれた方でした。努力すればいいことがあるということを教えていただいたので、パイロットになるためにどれだけ大変でも、頑張り続けられたのだと思います。

二人は将来、何になりたいかは決まっていますか?

岸さん:僕はパイロットになりたいです。でもさっきの話を聞いていると、すごく努力が必要なんだなって思いました。
岸さんのノート。今日のために質問がびっしり書き込まれていました。
阿部さん:努力は必要です。でも、積み重ねていれば、絶対に叶うと思うので頑張ってください。青木さんの将来の夢は?

青木さん:私は宇宙が好きで、宇宙関係の仕事に興味があります。でも阿部さんの話を聞いて、飛行機に関わる仕事も面白そうだなと感じました。これからもっとたくさんの人に会って、視野を広げていきたいです。
宇宙に興味の強かった青木さん、阿部さんとの会話から飛行機へも興味が。
阿部さん:まだ若いからいろいろなことに挑戦してほしいと思います。その先で、向いていないと思えば、いくらでも方向を変えていくことは可能です。ちなみに夜のフライトではオーロラや流れ星がよく見えますよ。女性パイロットも増えてきているので、ぜひ将来パイロットになることも検討してくれたら嬉しいです(笑)

青木さん:そうなんですね!オーロラが見られるなら、ちょっと考えようかな。
岸さんや青木さんに、パイロットとして働く厳しさと楽しさの両方を語ってくれた阿部さん。「パイロットはおすすめだよ」と二人に微笑みかける姿からは、幼少期から大好きな飛行機の良さを伝えたいという、まっすぐな想いが伝わってきました。

「好き」という想いを大切に、妥協せずに日々の業務と向き合う。「努力を積み重ねれば絶対になれる」という阿部さんの言葉に、在学生たちもそっと背中を押されたのではないでしょうか。
質問を終えた岸さんのリュックには、飛行機のキーホルダーが。夢をかなえてくださいね。