オイレス工業株式会社
オイレス工業株式会社
工学院大学の卒業生には、大学で身につけた「工学的視点」を活かし、各界のリーダーとして活躍する人物も多い。2024年4月にオイレス工業株式会社の代表取締役社長に就任した坂入良和氏もその一人だ。
坂入氏は、工学院大学の機械工学科で学んだ後、偶然の出会いをきっかけにオイレス工業に入社。ドイツ・インドへの海外赴任などを経て、会社の経営へと参画した。果たして、坂入氏はこれまでどのようなキャリアを歩んできたのか。また、学生時代に培った技術や知見はいかにして現在に活きているのだろうか。詳しく話を伺った。
オイレス工業は、潤滑剤を使わない「オイレスベアリング※」などの事業を展開し、国内外で高いシェアを誇っている老舗メーカーである。
同社は、実は人と事業の両方の側面で工学院大学にゆかりの深い企業のひとつだ。人の観点で言えば、1952年にオイレス工業を立ち上げた川崎宗造は工学院大学の前身である工手學校で技術を身につけた人物。それゆえ、同社には創業者の母校という縁をもとに、多数の卒業生が入社し、活躍する姿を見せている。過去には2000年代に、機械工学科を卒業した佐藤英二氏が社長を務めていたこともある。
また、事業の観点で言えば、オイレス工業はオイレスベアリングのほかにも免震・制震装置を扱っているが、それが日本銀行本店の姿を現在まで守り抜いている。日銀本店の建物といえば、工手學校の創立に深くかかわった辰野金吾が設計を務めた重要文化財。創立関係者が設計した建物を、工学を活かした技術で卒業生が守り抜き、未来へと繋いでいく。非常に興味深いストーリーが、オイレス工業と工学院大学との間に紡がれているのである。
※「オイレスベアリング」はオイレス工業が製造するオイルレスベアリングの登録商標です。
そんなオイレス工業のオイレスベアリングは自動車や半導体製造装置、免震・制震装置は様々な建築物や橋梁、オイレスベアリングの技術を応用したウィンドウオペレーターなどの建築機器は、商業施設やビル・住宅など、日常生活のあらゆる場面で使用されている。
「当社の技術は目に見えない部分で使われることが多いのですが、実は私たちの暮らしを力強く支えています。特にオイレスベアリングは、厚さ0.5mmの薄さでコンパクトに活用でき、コストを抑えることも可能です。軽く、熱や衝撃にも強く、メンテナンスフリーで使えることから、様々な産業で使われています。オイレスベアリングは、工手學校出身の川崎が、アメリカ製のタバコ巻き上げ機の中にあった『油を必要としない軸受』からヒントを得て技術を確立していった製品。それが今や国内だけでなく世界でも使われ、アジアやヨーロッパ、アメリカ市場へと広がりを見せています」
オイレス工業の強みは、国内外の特許を多数取得している技術力の高さと、営業とエンジニアが一体となって顧客ニーズに応えていく「テクニカルダイレクトセールス」の存在だ。
「エンジニアと営業が一体となってお客様と直接コミュニケーションを取ることで、顧客課題を深く理解し、最適なソリューションを提案できるようになります。それが優れた技術開発に繋がり、お客様からの信頼獲得と技術革新、新たな市場の創造へと結びついていくのです」
そうしたオイレス工業の技術力の高さは、大学でプラスチックの研究を行っていた坂入氏にとっても魅力的に映る要素の1つだったという。
「大学では、高分子研究室に所属してプラスチックに関連した研究に携わっていました。オイレス工業には、研究室にリクルーティングに来た卒業生とのご縁があって選考を受けることが決まりました。当社は当時から多数の特許を持っていましたから、やはり独自技術の多さと製品力の強さには惹かれるものがあり、入社を決める大きな理由の1つになりましたね」
1989年4月、坂入氏は晴れてオイレス工業の一員となった。そして、まずは藤沢工場の技術課に配属。ビデオデッキの内部にある、テープをガイドする軸受の開発や設計、評価など、量産に進む前の工程の大半に携わった。その後、技術部門へと異動し、自動車に関連する製品の開発、設計、評価、顧客折衝などを経験した坂入氏。自社の技術を用いながら、国内大手自動車メーカーの課題解決に一気通貫で携われたことが、大きなやりがいに繋がっていたという。
「他社とは異なり、当社のエンジニアは設計から評価までのすべての工程に関与できます。もちろん、全工程に関わる大変さはありますが、その分やりがいも大きいもの。お客様から引き合いをいただいたところから実際の製品完成までを見届けられたのは、非常におもしろい仕事でした」
一人のエンジニアとして着実に経験を積んでいった坂入氏。その後、“海外赴任”という大きな転機を迎えることになる。
それは、2000年代初頭のこと。オイレス工業は創立50周年を迎えたことで、グローバル展開を加速させることとなった。2003年、チェコ共和国に現地法人を設立すると、欧州市場への本格的な展開を開始。坂入氏はその先鋒として、国内自動車メーカーの欧州工場稼働と足並みをそろえる形で、ドイツへと赴任して現地での事業拡大の一翼を担った。
「ドイツでの仕事は、私のキャリアの中でも大きなチャレンジだったと思います。理系出身で語学はそこまで得意ではありませんでしたので、最初は言葉の壁が大きく立ちはだかりました。ドイツだけでなく、フランスなど欧州各国のお客様と直接コミュニケーションをとるために、英語を必死に勉強して、私が現地のお客様と英語で話している様子などが、夢に出てきたこともありました。それほど大変な思いをしながらの海外赴任でしたが、一方でやりがいもありました。日本で培ってきた顧客折衝力が活き、帰国する際に『坂入さん、英語うまくなったよね』と冗談を飛ばしてもらえるほどお客様から信頼を勝ち得ることができたときは、本当に嬉しかったですね」
そうした経験を経て、2024年4月からはオイレス工業を率いる存在となった坂入氏。会社のこれまでの歩みを大切にしながら、これから先の未来を切り拓こうと、新たな挑戦をも辞さない構えでいる。
「当社は今年、中期経営方針に加え、長期ビジョン『OILES 2030 VISION』を新たに策定しました。この中では、我々がかねてから主軸としてきた軸受機器、構造機器、建築機器の三事業の成長戦略だけでなく、未来の成長事業をつくることも新たな挑戦として設定しています。数々の先輩方が築き上げてきたものを大切にしながら、これから我々の世代が2030年またその先を見据えて新しい技術に挑み、将来への種まきを行いたい。そんな風に考えています」
坂入氏は、工学院大学で学んだ様々な知識とスキル、工学的視点が、現在の仕事に大きく影響を与えていると感じているという。
「大学では図面を書いたり、旋盤を回したりと、社会ですぐに使える技術も身につけることができました。そうしたスキルは、エンジニアとしてキャリアを歩む上で、大いに活きてきたように思います。また、経営を考える上では、物事の本質を見抜きながら会社が歩むべき道を筋道立てて探ることが大切です。そうした場面でも、工学的な『原理原則』を捉える視点やロジカルに考える力が非常に役立っていますね」
インタビューの終了間際、坂入氏は在学生や高校生に向けてこのようなメッセージを語った。
「大学での4年間、ぜひ様々なことに挑戦してほしいです。勉強であれば、専門分野だけでなく、一般教養も含めて興味のある授業をいろいろと受けてみるといいと思います。私も心理学など、専門外の授業をたくさん受けました。全く関係がない物事でも、学んでみると、自分の経験の幅が広がってきます。それは後々の社会生活の中で、きっと皆さんを助けてくれることでしょう。勉強だけでなく、友だち付き合いや部活動、アルバイトなどの経験も大切にしてください。興味の赴くままにチャレンジを重ねて、失敗も経験してほしい。成功や失敗の体験を重ねることで、精神的なタフさも養われてきます。大学生活を存分に楽しんで、皆さんの可能性ある未来を切り拓いていっていただけたらと思います。」
オイレス工業株式会社
https://www.oiles.co.jp/